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✍️120秒小説 | 遅刻代行ボランティア

「はい、5分後の21時、さざなみ駅前ですね。お顔については、はい、〝可愛い感じ〟で。では、うちの自慢のリスを向かわせますので、」

 それでは失礼いたします、と受話器を置けば、後ろでソワソワしたスタッフの息遣いを感じる。
 うちはいわゆる〝代行サービス〟を請け負う市民団体。
 完全ボランティアだから参加も自由だけど、意外と積極的な仲間が多いことも特徴だ。

「可愛い感じって、どんな感じかしらねぇ」

 うちの看板スタッフ、シマリスさんが大きな黒目をくりくりさせる。どんな感じも何も、そのままで十分可愛いですよ!今夜はそんな彼女とのお話。


 今夜は彼女と出掛ける約束だった。しかし21時きっかり待ち合わせ場所に現れたのは、彼女ではない。

「あなたの彼女の妹です!」

 リスだ。リスが僕に向かって話しかけている。間違いなく僕を呼んでいる。

「すいません、彼女待ってるんで」

「ええ、そうですとも。でもわたし妹で、あなたの彼女の妹なんですよ!」

 これは新手の詐欺だろうか。愛くるしい瞳が僕に訴えかけるが、可愛かろうと騙される余地はない。そこにいるのはリスで、僕の彼女は人間だ。

「お姉ちゃんとわたし、ちょっと似てないんです。でも笑うとおんなじ場所に、えくぼができるんですよ!」

 ほら、とリスは口角をキュッと上げて、頬袋の凹みの部分を指差してみせた。なるほど、凹みが人のえくぼみたいだ。毛並みは艶がかってふわふわで、思わず触ってみたくなるが、ここは心を鬼にして考えよう。
 この子が彼女の妹というのなら、一つ聞いておかなくちゃならないことがある。

「…因みに、兄弟って何人いるんでしたっけ?」

「えっと…6...7人姉妹ですね。家族が多いので、賑やかになりますよ!」

 7人とは!かなり多いなぁ。彼女とリスと、それ以外にどんな家族がいるか想像してみる。案外、面白いかもしれない。

 しばらく妹のリスと話していると、申し訳なさそうに彼女がやってきた。彼女の方も、あんまりに可愛いリスがいるもので、面食らった顔をしていた。
 折角の〝妹さん〟との対面なんだから、今夜は3人でいくのもアリかもしれない。
 すると妹の、あくまで妹を貫き通すそのリスは、3人の会食を随分喜んだ。

「私いいお店知ってますよ!デザートに、おいしいドングリパンケーキのメニューがあるんです」

文: az 絵:iz


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