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文化人類学を経て福祉の現場に入ってみたら。

私はいま福祉の現場で働いているが、福祉の勉強をしていたわけではない。学生時代は文化人類学を専攻していた。私のゼミの教授は次のようなことを言った。

「文化人類学とは相手と向かい合うのではなく、相手の背後にたって相手がみている世界観を理解することです。」

その教えに従って、銭湯やシェアハウスやボランティア団体など色んなところにフィールドワークに出かけた。相手の視点に立って文化を理解するというのは、相手との信頼関係を構築するところからはじまり、根気がいる作業ではあったが非常に面白くやりがいがあった。

しかし、文系の学生の多くがそうであるように、私は文化人類学を実生活でどう活かすのかわからないまま卒業し、専攻とは全く関係のない不動産業界にに入った。そして、回り回っていまは元ホームレスのおいちゃん達の支援のようなことをしている。

私にとって元ホームレスのおいちゃん達の世界は異文化だった。それももしかすると、外国よりも遠く離れた異文化。生活保護を1日で使い果たしたり、アルコールで入退院を繰り返したり、そもそも支援を拒否したり…日々予想もつかないことが立て続けに起こる。なぜここでこうするのか?なんでこんな発言をするのか?そんなことで頭を悩ませる日々が続いたある日、ふと気がついた。

あ、これって文化人類学の視点じゃん!

信頼関係を構築すること。言葉を丁寧に拾ってくこと。行動をよく観察すること。自分の持ってるバイアスに自覚的になること。文化人類学のフィールドワークで鍛えられたそれらのスキルがいま非常に役に立っている。

「文化人類学」が「福祉」に繋がるなんて学生時代にはこれっぽっちも想像できなかった。けれども、よく考えてみれば福祉というのは「人間の営み」に向き合うことなのだから、福祉は福祉の専売特許でもなんでもなく、その入口や切り口はどこにでもあったはずなのだ。

つまり、文化人類学なら文化人類学なりの、政治学なら政治学なりの、工学なら工学なりの福祉への生かし方がある。きっと学問だけではなく、職種でも同じことがいえるだろう。

人手不足が慢性的な福祉の現場では、福祉の技術と知識はあるが組織運営の経験のない人が、よくわからないままに現場と兼任で経営や広報や人事も任されているところも少なくない。

専門職的な要素がつよいためか福祉の現場は一般的なキャリアコースから隔離されがちだ。しかし、実際に福祉の現場に立ってみると、バックグラウンドやスキルの多様性こそが現場に必要だと強く思うのだ。

と、同時に福祉的な感性や視点を持ったひとがもった人達が福祉の現場にとどまらずに、もっといわゆる一般的な社会で活躍できればと思っている。福祉と社会をグラデーションにしていくこそが、優しい社会をつくる方法ではないかと。

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