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第74回:『西由比ヶ浜駅の神様』は最高の「勇気」と「感動」が貰える物語

こんにちは、あみのです!今回の本は、村瀬健さんのライト文芸作品『西由比ヶ浜駅の神様』(メディアワークス文庫)です。

最近、話題になっている作品とのこともあって、本屋でもよく見かけていた1冊。数々のメディアワークス文庫の話題作の中でも今作は未読だったので、心揺さぶる物語を求めて読んでみました。

あらすじ(カバーより)

一本の電車をめぐる号泣必至の感動作
 鎌倉に春一番が吹いた日、一台の快速電車が脱線し、多くの死傷者が出てしまう。
 事故から二ヵ月ほど経った頃、嘆き悲しむ遺族たちは、ある噂を耳にする。
 事故現場の最寄り駅である西由比ヶ浜駅に女性の幽霊がいて、彼女に頼むと、過去に戻って事故当日の電車に乗ることができるという。
 遺族の誰もが会いにいった。婚約者を亡くした女性が、父親を亡くした青年が、片思いの女性を亡くした少年が‥‥‥。愛する人に再会した彼らがとる行動とは――。

感想

ここ最近読んだ本の中でも特に良かったです。この物語には、電車の脱線事故で大切な人を失った人々が登場します。彼らは「雪穂」という女性の幽霊に導かれ、事故で亡くなった人にもう一度会うため、幽霊列車に乗ることを選びます。

脱線事故によって失われてしまった未来はあったけど、亡くなった人の思いを背負い、前向きに生きようとする人々の姿にとても感動しました。故人にはもう会うことはできないけど、彼らは見えないところで今を生きる人々の未来を応援していることがよく感じられる物語でした。

婚約者、気になるあの人、家族…。今まで一緒に日々を過ごしてきた人、あるいは目標にしてきた人がある日突然、この世からいなくなる悲しみや痛みを感じる今作。その中でも父親を亡くした雄一のエピソードが、今の私の境遇に近くて特に印象に残りました。

価値観が合わないなどの理由から、父を苦手に感じていた雄一。現在は別々に暮らしていたものの、例の事故が発生。父の死を知った雄一は、これからの人生に悔いがないよう生きていくため、そして父の本当の気持ちを知るために幽霊列車へと乗り込みます。

幽霊列車で知った父の気持ちからは、雄一がこれまで嫌っていた父の考えに隠された真実と、息子の将来への期待を感じました。その中でも将来を見失ってしまった雄一に父がかけた言葉がいい言葉だなと思いました。

生きる答えを教えてくれるのは、いつだって人間だ。コンピューターでもロボットでもなく、人間が教えてくれるんだすべてを。だから、勇気を出して人と接しなさい。大勢の人と、話をしなさい(p139-140)

私も人と関わることは苦手です。初対面の人なら尚更です。でも、いつもと同じ人の意見だけじゃ問題が解決できないときだって、少なくはないと思います。

そのときに備え、自分の中にある選択肢を増やすためにいろんな人と関わっていくことが大事なんだという気付きがこの物語にはありました。これだけでも大きな収穫だったと思う。

また、物語の序盤、鉄道会社による被害者説明会で、婚約者を事故で亡くしてしまった女性が鉄道会社に怒りを訴えるシーンがありました。この時の彼女の言葉からは、2人で築いたものを一瞬で壊されたことへの怒りと悔しさが凄まじく感じられました。コツコツと作り上げたものを簡単に壊されたら、誰だって辛いし、怒りたくもなると思う。

脳内に焼き付くシーンが序盤からある今作ですが、事故の被害者がいるということは加害者がいて、その家族もいることを忘れてはなりません。

今作の後半では、脱線事故の加害者である運転手の妻が登場します。夫を事故で亡くし、それ以降世間からの誹謗中傷を毎日浴びせられていた妻は、この世に生きる価値を徐々になくしていきます…。加害者の家族だってひとりの人間であり、心も身体も傷つくことをよく感じるシーンでした。このシーンは多くの人に届いてほしい。

夫との再会だけでなく、雪穂が幽霊になった理由にも触れながら妻は生きる価値を取り戻していきます。このエピソードを読み終えた後、じわじわと心の中が温かくなりました。また加害者側の気持ちを知ると、被害者説明会でのやりとりがまた違うように感じ取ることもできました。

自分の立場だったら…と思うと悲しくなってしまうエピソードも多かったですが、登場人物それぞれ奇跡を信じて「死」という現実を乗り越えていく姿にとても勇気が貰える物語でした。読んでみて良かったです。

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ここまで感想を読んで頂き、ありがとうございます。多種多様な感動を味わえる1冊。読めばきっと今の自分が欲しかったエピソードに出会えます。

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