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掌編小説

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【掌編小説】を集めたものです。
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【散文】永遠の夏の早朝

【散文】永遠の夏の早朝

 夏の早朝の浜辺の波打ち際を歩いていた。太陽はすでに昇り始めていて、少しの靄がかかり仄明るい。辺りはほとんど誰もおらず、居たとしてもその人と私とは違う時間が流れていて、それぞれが心地のよい孤独を感じている。

 私が歩いてゆく方向に一つの大きな朽ち果てた流木があり、そこにおじいさんが座っている。私が会釈をして通り過ぎようとすると、「ちょっと」とおじいさんは手招きをしながら言い、私を自分の横に座るよ

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【掌編小説】みんな

【掌編小説】みんな

「さあ、行こう」
 Kは前を向きながら、隣で一緒にベンチに座っているUに向かってそう言葉を発した。Uはずっと怪訝な顔をしてうつむいている。
「……嫌よ」
「……」
 沈黙が二人の間に流れた。Kは焦りもせず、凛々しい顔をしている。Uは相変わらず、怪訝な顔をしている。
「……ばさっ!」
 KとUの前で闊歩していた鳩が飛び立った。Kは鳩が飛び去る方へ目線を追いかけた。Uは表情ひとつ変えずにうつむいたまま

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