【掌編小説】恋の病
朝、目が覚めると天井の景色がいつもと違った。昨日、恋人の家に泊まったのだと思い出す。ベッドにはもう恋人はおらず、洗面所の方で水が流れ出る音がしていた。なんて幸せな朝だろう。顔を洗ったと思しき恋人は「起きた?おはよう」と私に声を掛けた。「おはよう」と返し、ふと恋人の顔を見ると、そこにいたのは見知らぬ顔の人だった。
「誰?」と私が強張った声で言うと「ん?どうしたの?」と軽やかに笑いながら私の言葉を受け流した。私は急いで着替えた。「え、朝ごはん食べないの?」と心配そうに声を掛ける見知らぬ人を無視し、玄関へ疾駆する。焦る心を募らせながら玄関で靴を履き、家を出ようとしたとき、ふと気が付いた。私に恋人はいないことに。そして振り返ると誰もおらず、ここはいつもの自分の家だった。私はため息をついた。
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