[掌編小説] コートの女
日が暮れかけていた。村には一人の女が不審なよろめき方をしながら歩いていた。周囲には誰もいない。ボロボロの長いコートの前を懸命に締めながら、40歳ほどの女が一人歩いていた。
四辻にさしかかると、女は止まった。女は警戒するように辺りを見回した。そして、コートの内ポケットからライターを取り出し、それをぽいっと前へ投げた。ライターは女から見て左側に着火する部分を向けて倒れた。女は無表情のままライターを拾い、ライターをまたコートの内ポケットに入れて、コートの前を懸命に締めながら四辻