【掌編小説】永遠の夏の早朝
夏の早朝の浜辺の波打ち際を歩いていた。太陽はすでに昇り始めていて、少しの靄がかかり仄明るい。辺りはほとんど誰もおらず、居たとしてもその人と私とは違う時間が流れていて、それぞれが心地のよい孤独を感じている。
私が歩いてゆく方向に一つの大きな朽ち果てた流木があり、そこにおじいさんが座っている。私が会釈をして通り過ぎようとすると、「ちょっと」とおじいさんは手招きをしながら言い、私を自分の横に座るよう促した。私はおじいさんに従い、隣に腰を掛けた。おじいさんはずっと黙っている。私もずっと黙っていた。おじいさんはずっと海を見つめている。その海を見つめる瞳には、とっくに日の暮れた夜の海の暗闇が映っていた。
二人は永遠の時間を流木の上で過ごし、私はまた、夏の早朝の浜辺を歩き始めた。
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