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【詩的実験】父方の祖父母

二〇二〇年の正月に
父方の祖父母に一人で会いに行った
一人で会いに行くなんて
いままでなかった
なぜ行こうかと思ったのか
もう忘れてしまった

祖父母はわたしたち孫と会うと
いつも同じ話をする
祖母に関しては ぼけてはいないが
わたしに いつまでも子供のように接して
祖母のなかでは
わたしは中学生から成長していないようだ

いつものように同じ話をする祖父母が
ひとつ いつもと違う話をした
「おじいちゃんも仕事を辞めたから
二人でヨーロッパへ
旅行に行こうと思ってるんだよ」
祖父は八十歳を過ぎても仕事を続けていたが
ちょうどついに仕事を辞めたところだった
若いときに祖父は仕事で世界中を飛び回り
そのなかで特に思い入れのある
ドイツに行きたいそうだ
二人は照れながら夢を話してくれた

そしてすぐに
海外に行けない世界情勢になった
そのちょうど二年後 祖父は脳出血で倒れて
寝たきり状態になった

寝たきりの祖父よ
あなたが倒れてから
わたしにはいろんな出来事があった
人生は思い通りにいかないなあ
酒を片手に あなたと
いつもと同じ話をしたいと
これほどまでに 想ったことはなかったよ

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