【掌編小説】寂寥の旅立ち
駅のホームに私は立っていた。屋根もない、人もいない、聴こえるのは鈴虫の声だけの駅のホームで。時刻表に書かれていた終電の到着時刻を二十分程過ぎているが、終電の電車は来ない。不安が募る。とりあえず、ホームの椅子に座ろうとしたとき、改札の方から十歳前後と思われる少年がやってきた。そして、少年がホームに来たのと呼応するように電車がやってくる音がした。よかった。一両編成の電車がホームに着き、電車に乗ると、元々電車に乗っていた五人程の乗車客たちは、皆嗚咽を漏らしていた。そして、少年は電車に乗らなかった。電車のドアが閉まり、電車が発車すると、少年はホームで電車に向かい「万歳!万歳!」と大声で叫びだした。すると、乗車客たちの涙声は大きくなった。私も思い出したように泣き崩れた。少年の声は、いつまでもいつまでも私の頭の中で残響していた。
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