【掌編小説】雨の少女
外は激しい雷雨である。風は家の窓をとても強く打ち付ける。この世の終わりではないかと思わせる。だが、自然と落ち着いた心でいる自分に気付き驚く。内に居る安心感。内と外では別世界である。珈琲を淹れ始める。外は相変わらず暴風と強い雨の音とでうるさい。でも、どこかそのおかげで家の中には静謐さがまとう。
少女はソファに座って私が珈琲を淹れ終わるのを待っている。体育座りをしながら。「いい匂い」と楽しそうに呟く。淹れた珈琲をカップに入れ、少女の前に置く。少女はその珈琲に角砂糖を三つ入れた。そのときちょうど雨が止んだ。さっきまでの雷雨が嘘みたいに。少女は「行かなきゃ」と言い、珈琲に一口も付けないで家を後にした。少女が誰だったかどうしても思い出せない。私は少女の珈琲に口を付ける。甘ったるくて涙が流れた。
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