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第8回「日常の風景を書いてみる」

「文章の書き方」
編集&ライティング歴40年ほどのフリーライター。120冊以上の書籍化でライティングを担当。
このnoteでは、誰でも文章が上手になるコツを伝えようと思います。特に順序立てて書くわけではありませんので、どの回から読んでいただいてもかまいません。また何回のコーナーになるかも決めておりませんので。暇な時に拾い読みして、参考になる部分だけを実践してみてください。


「たくさん書く」練習

 文章の上達法は、やはりたくさんの文章を書くことに限ります。いろんな書物を読むと同時に、ともかくパソコンに向かって書いてみる こと。書く量に比例して文章はうまくなるものです。

実況中継的、テーマの見つけ方

 そうは言っても、いったい何を書けばいいのか。どこからテーマを見つければいいのか。きっとそんな疑問を持つ人が多いと思います。 何かからテーマを与えられれば書くこともできますが、自分からテーマを探すのは難しい。ついそう思ってしまいます。

 私も大学を卒業して出版社に入社したての頃に、とにかく文章を書けるようになりたかった。新人ですから、編集部のなかで書く仕事な どはまだまだ与えられません。いったいどのようにして文章の練習をすればいいのだろう。そう思っていたとき、民放ラジオ局のあるアナウンサーのインタビュー記事が目に留まりました。そのアナウンサーは、実況中継の練習をするために、ある方法を実践していたのです。
 その練習法とは、毎日の通勤で電車から見える風景を実況中継するというものでした。たとえば「今どこそこの駅を出発したばかりです 。車窓から見える小学校の校庭の桜が三分咲きになっています。登校してくる子供たちを出迎えるため、校長先生が校門に立っています。 降りた遮断機の前で待っている車の運転席には、家族を駅まで送る女性がみえます。」などと、車窓から見える風景を実況中継していたそうです。

400字で書く日常

 毎日乗っている電車。ほぼ同じ時間に乗っているのですから、見える風景も同じだろう。そう思うかもしれませんが、実は車窓からの風景は日々変化しているのです。雨の日もあれば晴れの日もあります。風が強い日もあれば穏やかで眠たくなりそうな日もある。一日一日と 季節も進んでいます。今日見た風景と、明日の風景は同じではないのです。

 このアナウンサーの練習方法を、私も真似てみました。通勤の電車ではほとんど読書をしていましたが、それでもふと窓の外を見ること もあります。そんなときに目に留まった風景。印象に残った風景や目にした人たちのことを書くことにしたのです。原稿用紙で一枚。字数にすれば400字くらいのものです。400字の文章ですから、印象に残った出来事は一つあれば十分です。

 たとえば、電車から見える一件の家。その庭にあった木が、あるときからなくなりました。きっと何らかの理由で伐採されたのでしょう 。一本の木が無くなるだけで、目にする風景は少しだけ変わってしまいます。その小さな変化を文章にしてみる。
 いつも必ず見かけるお婆さん。家の前の道路に散らばった落ち葉を箒で掃く姿を毎日見かけます。ところが今日はそのお婆さんの姿がありません。どうしたのだろう。風邪などひいていなければいいけど。そんな心配を文章にしてみたりする。この一日400字の練習が役に 立ったかどうかは分かりませんが、きっと小さな積み重ねの一つになっていることは確かだと思います。

自由に書く=随筆のすすめ

変化に気づけばテーマはある

 日々の出来事や、自分が感じたことを書く。これがエッセイと呼ばれるものです。エッセイを日本語にすれば随筆です。随筆とはつまり 、感じたことを自由に書くということ。要するに何を書いてもOKなのです。

 どんな練習をすればいいかがわからないという人は、ぜひエッセイを書く練習をしてみてください。日常生活のなかで起こる出来事は実にたくさんあります。毎日が同じだと感じている日常も、少し気を付けて観察すれば、そこには昨日とはまったく違った今日があります。 その小さな変化を楽しみながら、その楽しさを文章にしてみてはいかがでしょうか。

日常の風景、気分をエッセイに

 朝でかけるときには雨が降っていた。何となく気分が落ち込むような暗い空が広がっています。憂鬱な一日だなと思いながら会社に向かいます。一時間ほど電車に揺られて、いつもの地下鉄の駅に到着します。雨で濡れた笠に気をつけながら、地下鉄の出口へと向かいます。 そして地下鉄の出口をでたとき、沢谷から青空が広がっていました。家を出る時とは大違いのすばらしい青空がいっぱいに広がっていまし た。
 「ああ、何て気持ちのいい空なんだろう。今日はいい日になるような気がする」

 そんな気持ちの移り変わりを文章にしてみるのです。家をでたときの気持ちと、地下鉄の出口を出たときの気持ち。たった一時間のなかで起こる心の変化。そんな変化に目を向けながら、あなただけのエッセイを書いてみてください。そしてできることなら、その書き溜めた エッセイを誰かに読んでもらうことです。そんな習慣を半年も続ければ、知らないうちに文章はうまくなっているはずです。

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