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【読書】 谷崎潤一郎 「台所太平記」

「細雪」がものすごく面白かったので、今度はその世界を女中の側から見た版?ともいえるべきこの本を読んでみる。とはいえ「細雪」を読んだのはもう5年くらい前・・・。ずいぶん間が空きました・・・。

戦前、昭和11、12年頃から物語は始まるが、なんというか現在と生活の文化があまりに違う。どこか心に余裕があって、贅沢するという事が美しいのだ。

冒頭は ”昨今の「女中」の呼び方の変化について” の記載で、次の時代の流れが押し寄せてきていることが予感される。物語の終盤が昭和33年頃、ここに至る間でさらに状況は変化して、もう「女中」は社会からほぼいなくなるであろう様相を記して終わる。

この「台所太平記」の時代、女中は単に家事をするお手伝いではなく、時に主人に意見したり、外出に同行したりで、何か近しい存在であったらしいことが何より新鮮な驚きだった。雇い入れる側も、大事な娘さんを預かっている、という気持ちを持っていたりして、嫁ぎ先の心配までしてくれるのだ。

大抵がお料理上手な女中だったようで、料理の様がちらほら書かれている部分に、こんな人にご飯を作ってもらいたい!と思わずにはいられない。また、気になる彼女たちの容姿は、顔はご愛嬌でもスタイル抜群、連れて歩きたくなる美女など様々で、物語の中で描かれる生活に想像がふくらむ・・・。

谷崎先生がモデルと思しき、雇い主の作家の千倉磊吉先生も一筋縄ではいかないが、女中たちがまた相当に濃いキャラ揃い。何かと家に騒動が起こります・・・にも関わらずよっぽどでなければお暇も出さず、懐が深いな、と。

当時、田舎で働き口のない若い娘たちに職を与え、礼儀作法などを教える場が「女中」だったのかな、と感じる。

戦後、世の中を均等にしようとした訳だけれど、現在もどうせ貧富の差はあるのだから、ものすごーいお金持ちがいて人を雇ったり文化を育てたりしててもよいんではないかな、と思ってしまった。



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