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掌編小説

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掌編小説です
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#失恋

かすれた声【掌編】

かすれた声【掌編】

「ごめんね」
 許す許さないの前に、そのハスキーボイスが気になるよ。
「風邪ひいたの?」
「いや、昨日クーラーつけっぱなしで寝たから」
 つけっぱなしのクーラーの生み出した声が、思いがけなく私の琴線に触れてしまう。抱いていた怒りは、彼の寝ぐせをつい指でもて遊んでしまうほどの愛おしさに変わってしまった。
 これじゃあ、また同じ繰り返しだ。我に返って寝ぐせから指を離す。一歩下がる。
「許さない」
「ご

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【掌編】花火の音

【掌編】花火の音

 持っていくべき荷物は数少ない。カーテンもソファも彼と一緒に選んだモノだし。嫌がらせのようにこの部屋から持ち去ってもいいけど、こびりついた彼との思い出は、強力な漂白剤を使ったって、色褪せそうにない。
 今日、この部屋を訪れたのは、花火大会があるから。彼と初めてデートしたのが、ちょうど三年前の花火大会だった。今年は、あの子と一緒に花火を見ている彼。二年同棲したこの部屋とお別れをしに来ている私。
 お

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