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掌編小説

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2017年10月の記事一覧

おでんニスタ

おでんニスタ

このつやつやとした丸い玉はなんでしょうか。

「ふむ、それは、ゆで玉子じゃ」

箸で追いかけると、つるつると逃亡を計り、なかなか掴めない、憎いやつだ。

「ふむ、生きがいいのう」

この糸のようなものはなんでしょうか。

「ふむ、それは、糸こんにゃくじゃ」

だし汁が滲み出す黄金色に透き通った身体には、うっとりとしてしまう。

「ふむ、美しいのう」

この白くてふわふわしたものはなんでしょうか。

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刈り入れどき

刈り入れどき

水に飢え、岩地を彷徨う子羊の足は、血で滲む。

たどり着いたのは、炎のごとく燃える森。

地の底から湧き上がる、熱き血潮を呑み込んだ森。

木々の葉は血潮の熱さで燃え出していた。

炎の重さに耐えられず、枝から離れていく香ばしい葉たち。

地の上で、幾重にも重なり、眠りに付く。

後悔や、秘め事や、罪、それらを覆い隠す。

これから訪れるであろう、凍てつく冬に見つからぬよう。

木の葉で埋め

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リボルバー

リボルバー

手にしたスマートフォンの光に目にくらむ、愚かな男がおりました。

切りすぎた前髪を人差し指で弄び、昔話風に呟いております。

愛した男に気づかれない哀れな前髪。

触れる指先には、美しいネイルが施されております。

ベランダの窓を開けると、ネイルと同じ色に滲む朧月夜です。

あなたの額が好きでした。

私のわがままに困る皺が好きでした。

だから、あなたの、額に向けたのです。

朧月夜

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水を

水を

水をひとくち分けてくださいませんか。

「申し訳ありません。私もこれで最後なのです」

お金ならあります。

「お金などいただいても仕方ないのです」

何を差し上げたら水を分けてくださいますか。

「食べ物となら交換いたしましょう」

あいにく、持ち合わせておりません。

「申し訳ありません。私も生きるのに必死なのです」

そうですよね。こちらこそ、無理を言って申し訳ありませんでした。

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朧月夜

朧月夜

紺青に滲む朧月。

滲み行く月明かりは危うき世の果てまで染み行かん。

我がうなじを伝う冷たき滴は、清き涙か、あるいは、苦き血潮か。

消え行く百合の香りに絡みつく小琴の音が、我が髪を乱す。

くれなゐの花弁を重ね、かぐわしき歌に泣かん。

小箱に秘めし問いは夕雨に濡れ、燃え立つ焔は羽に覆われん。

瞳の色をうるませし君、月光の河にて、浮葉の舟を待つ。

柳のかげに消え行く姿を写す夜露、呑

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