おでんニスタ
このつやつやとした丸い玉はなんでしょうか。
「ふむ、それは、ゆで玉子じゃ」
箸で追いかけると、つるつると逃亡を計り、なかなか掴めない、憎いやつだ。
「ふむ、生きがいいのう」
この糸のようなものはなんでしょうか。
「ふむ、それは、糸こんにゃくじゃ」
だし汁が滲み出す黄金色に透き通った身体には、うっとりとしてしまう。
「ふむ、美しいのう」
この白くてふわふわしたものはなんでしょうか。
「ふむ、それは、はんぺんじゃ」
羽毛のように柔らかい体を触ると、泉のごとくだし汁が溢れる。
「ふむ、夢のような布団じゃな」
この輝く切り株のようなものはなんでしょうか。
「ふむ、それは、大根じゃ」
あたたかな湯気を放つ大根の表面に箸を入れた。
すっと縦に割れ、だし汁が湧き出す。
柔らかい大根のあたたかさは、口の中で溶けてゆき、私の頬を自然と緩ませた。
予期せぬ笑顔に戸惑いながらも、箸を止められないのである。
そんな私を見て、おでんニスタも満足げ。
鍋にごろごろ浸かるこれらを、幸せと呼ぶのでしょうか。
「さよう」
湯気を立つ幸せを、あなたにもおひとつ。
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