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刈り入れどき

 水に飢え、岩地を彷徨う子羊の足は、血で滲む。

たどり着いたのは、炎のごとく燃える森。

地の底から湧き上がる、熱き血潮を呑み込んだ森。

木々の葉は血潮の熱さで燃え出していた。

炎の重さに耐えられず、枝から離れていく香ばしい葉たち。

地の上で、幾重にも重なり、眠りに付く。

後悔や、秘め事や、罪、それらを覆い隠す。

これから訪れるであろう、凍てつく冬に見つからぬよう。

木の葉で埋め尽くされた地は、血だらけの足には羽毛のようだった。

歩むことができる嬉しさに、子羊は鳴く。

燃える枝から子羊を見守る鳥が、美しい歌声で答えた。

森に張り巡らされた五線譜の間を、子羊と鳥の声が交差する。

秋の旋律を燃える木の葉が彩った。

森を抜けると、黄金色の波が広がった。

目をあげて、畑を見よ。

はや黄ばみて、刈り入れ時なりき。

#小説 #掌編


 

 

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