見出し画像

朧月夜

紺青に滲む朧月。

滲み行く月明かりは危うき世の果てまで染み行かん。

我がうなじを伝う冷たき滴は、清き涙か、あるいは、苦き血潮か。

消え行く百合の香りに絡みつく小琴の音が、我が髪を乱す。

くれなゐの花弁を重ね、かぐわしき歌に泣かん。

小箱に秘めし問いは夕雨に濡れ、燃え立つ焔は羽に覆われん。

瞳の色をうるませし君、月光の河にて、浮葉の舟を待つ。

柳のかげに消え行く姿を写す夜露、呑み込む冷たき地。

琴の上弾かれ散るは、古き恋歌。

口ずさむ唇に滑る冷たき月明かり、喉を潤す。

夜の帳開きし風、髪のほつれをほどかん。

髪をとくは、やわらかき月明かり。

髪を濡らすは、やわらかき月明かり。

今宵の朧月夜、みなうつくしき。

#小説 #掌編



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?