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 毎日こんなに暑い中練習し、帰ってきたら完全に体の充電は一桁。一度昼寝してしまえば、布団が湿原のようなぬかるみを出して私を浸からせ、離さない。私のそんな毎日を、昼時に彩るものがあった。

 先日、初めて昼ビールを敢行した。部活も終わり、自転車で帰ってきて、さあ近くの売店に行き、なにか冷たいもので体を癒したい。スーパーを一周してみる。いつも選ぶものは冷たいお茶か、ガリガリ君。しかし、今日はどちらもそんな気分ではなかった。お茶よりも刺激が欲しい……だが炭酸飲料はどれも糖分が多く、口にベタベタした感触が残るから嫌だ。ただの炭酸水は苦手である。アイスを見ても、今日は甘いものの気分でもなかったし、溶けて手を汚す前に食べきらなきゃいけないよう使命感を持つほどの気力もなかった。

 昼にお酒など飲むことがなかっただけに、商品棚から缶ビールを取り出すことに少し躊躇した。だが、その躊躇も暑さでだいぶ効力が低くなり、すぐにレジへを持って行った。家に帰って冷蔵庫にぶち込み、私はシャワーを浴びて、全身保湿した。シンクに目をやると、以前ビールを飲んだ際に使った洗っていないグラスを見つけた。

 いつも、ビールは色合いと泡とのバランスの美しさを見て愉しんでから飲みたいので、グラスに注いで飲む。しかし、とにかく今は、あの苦さ、喉を通る時の重さ、微弱なアルコールによる軽い酩酊の心地よさを味わいたくて仕方なかった。グラスをいちいち洗っていられないほど、口の中が、辛口の炭酸の刺激を求めていた。

 体を拭いたタオルを首にかけ、椅子に座り、一呼吸。朝から頑張ってトレーニングをした体がここでようやく休めるタイミングを得た。

 シュコンという音とともに缶が開けられる。今回は、中身の色を確認しない。この液体への慈愛を忘れた私は、一気に喉にビールを流し込んだ。

 刹那、全身が震えた。冷水シャワーを浴びていても、夏のまともに冷たくならない水に体が未だ火照りを覚えていたが、これを流し込むことによって中身から私を瞬時に冷却していく。

 大人でしか味わうことのできない快然。子供には、この口の中と体にのしかかる重さの心地よさを知らない。大人の嗜み、大人同士であっても共有することが許されないような、禁断の愉悦。許されていたとしても、自ら許すことのできない、罪悪感。本当の意味での背徳。

 炭酸に負けたのか、背徳に負けたのか、涙を浮かべた。
 この一杯のために生きているためではないのに、全身の悦びが、虚言であっても人生を語りたくなる。

 一気に飲み干してしまった。心地よく酩酊し、私は冷房によってよく冷やされた湿原に飛び込んだ。

 危険である。しばらく昼ビールはやらない。

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