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読書感想No.32『妊娠カレンダー』

こんにちは、天音です。

今回の読書感想は、小川洋子さんの『妊娠カレンダー』(文春文庫)です。

●あらすじ(裏表紙)
出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹……妊娠をきっかけとした心理と生理のゆらぎを描く芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」。謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ドミトリィ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢のように鮮やかな三篇の小説。

初めて小川洋子さんの小説を読みました。『博士の愛した数式』も気になっていたのですが、この前芥川賞受賞作の『コンビニ人間』を読んだので、こちらにしました。

私が今まで読んだ芥川賞は3作。
『推し、燃ゆ』『コンビニ人間』『妊娠カレンダー』です。
作風似てるな、というのが大きな感想ですね。ありふれた中に紛れている欠損という感じでしょうか。この中では『推し、燃ゆ』が少し異端かもしれません。

「妊娠カレンダー」では、主人公は毒薬まみれと知りながらグレープフルーツでジャムを作ります。妊娠している姉が食べたいと言ったから。
初めにグレープフルーツが出て来たとき私は、「妊娠してる時って酸っぱいものが食べたくなるっていうよね、いい妹じゃん」と思っていたのですが、真逆の展開でびっくりしました。

姉に毒を盛る「悪意」についての感想をよく目にましたが、私は主人公の行動に
悪意は感じなかったです。

確かに主人公は、毒薬のついた材料でジャムを作り姉に食べさせます。

しかし私は、この小説に一貫して表れているのはどうも「他人事の空気」だと思うのです。
妻が妊娠し、その変化に右往左往する旦那(主人公から見れば義兄)。
姉に言われるがままに行動する主人公。
膨れる腹を見ても、そこにいるのが自分の子供だという実感がわかない姉。

登場人物全てにとって妊娠は他人事で、感情を伴った事象として認識されていないのです。

これは主人公がジャムを作る行為にも当てはまります。
ジャムを作るのも、姉に食べさせるのも、全部他人事。
認識する世界に、ぶよぶよした透明な膜が張っているような感覚で読みました。

私はよく読んだ作品を食べ物に例えるのですが、今回ちょっと驚いたことがあったんです。
「妊娠カレンダー」の第一印象は、“苦い“というものでした。
「ずいぶん苦い話だなあ、何だか柑橘系の果物の皮を齧っている気分。おばあちゃんが作ってくれるはっさくピールみたいな」と思いながら読んでいたら、語り手がグレープフルーツでジャムを作り始めたので、本とは別に興奮しました。

こんな味ですよと感想を書くときに、伝わるかなといつも少し躊躇うのですが、今回は自信を持って書けます。
『妊娠カレンダー』は、柑橘系フルーツの皮の味です!🍊
私の本に対する味覚も馬鹿にできないみたいですね。

解説には、空想や夢の中に現れる赤ん坊は<自己>であるという夢解釈を適用しているところがありました。
主人公は姉の中にいるであろう子供を破壊するために毒入りジャムを作ります。
つまり主人公は自己を破壊していると。

私は違う見方もできるのではと思いました。
主人公は赤ちゃんを想像できていませんでした。どうしてもできなくて、結局、染色体として認識します。
夢解釈を当てはめるのならば、主人公は自分を想像できない、つまり個として認識できていないということになるのではと考えるのです。

自分の生活や生命なのに、自分事として捉えられないねという話として読むこともできるのかな、と思った次第です。

とても繊細で淡々とした本でした。この短編の中にも数学が出てくるところがあったので、『博士の愛した数式』も読んでみたいなと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました🌸

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