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読書感想No.31『孤島の鬼』

⚠️今回は感想を叫ぶので、気をつけていますが重大なネタバレがあるかもしれません。今後この本を読むつもりの方はお気をつけください。

こんにちは、天音です。
今回の読書感想は、江戸川乱歩の『孤高の鬼』(リブレ出版)です。

●内容紹介
最愛の恋人である初代が何者かによって殺されてしまった蓑浦は、事件の真相を暴き復讐を誓う。博識で犯罪事件にも精通している友人、深山木に助言を頼んだところ、捜査の途中で深山木も何者かに殺されてしまう。蓑浦に好意を寄せる青年、諸戸とともに事件をおっていくにつれ、おぞましい黒幕が明らかになっていく。

江戸川乱歩、初挑戦です。
難しいかなと思って身構えていたのですが、意外にも文体は読みやすかったです。わからない単語が少しあったくらい。何回調べても傴僂の読み方を忘れました。ああ、また忘れた。

この本の根底には同性愛が横たわっています。
蓑浦を8年ほど思い続けている美青年諸戸。あまり設定やあらすじを読まずに読み始めたのですが、この部分は知っていました。
そして帯に書かれているセリフ。

“どうか僕から逃げないでくれたまえ”

わかったぞ、と。こいつが狂愛の末に蓑浦くんに関わる人物を消していってるんだなと。
まずは恋人を殺し、さらには友達まで殺しやがって!
ひどいやつだ。いつ本性を表すんだ、この悪魔!

こんな感じで身構えて読んでいたんですね。騙されんぞと。

しかしいつまで経ってもそんな素振りは見せない。
それどころか、普通に蓑浦くんに優しい。良い人。
そして途中から度し難い別の悪魔が出現。
上のセリフはかなり序盤で出てきたものなんですが、後半、クライマックスのシーンでは私も叫びそうでした。

「逃げないでくれたまえ!」と。

この本の黒幕は確かに孤島の鬼でしたが、私的には蓑浦くんも十分に鬼でしたよ……。なんて酷いことを……。
とんだハッピーサイコ野郎じゃないか……。
こんな自己中心的な人間はそうそうお目にかかれるものじゃありませんよ。
自分が幸せだと他人も幸せな状態だと思うタイプに報われない恋をしても辛いだけですね。心底諸戸に同情します。
一度「孤島の鬼、諸戸」で検索した時に、「かわいそう」が検索ワードで出てきた意味を理解しました。本当にかわいそう。

孤島というワードから、デスゲームみたいな話を想像していたのですが、全然違いました。
いい意味で裏切られた。
ミステリというよりは、人間の心理に染み込んでいくタイプのゴシックホラー小説として楽しんだ本です。おどろおどろしい雰囲気たっぷり。

“彼らはまるで別世界のけだものでもあるかのように、あたり前の人間を恐れ憎んだ。”(268)

ちょっとまだまとまっていなくて、うまく言語化できないんですが、この一文はよく考えたいなと思ったところです。

結局、蓑浦は諸戸を拒み、常軌を逸した愛(ここでは同性愛)をはねつけました。

彼はずっと自分は当たり前の人間であるかのように振る舞っていましたが、本当にそうでしょうか。
初代と、のちに蓑浦と結婚する秀ちゃんの関係。二人の年齢。
異性間ならどのような愛も美しく一般的なのか。
考え込んでしまいますね。

私の感覚では、『孤島の鬼』はシュトーレンです。
章がかなり小刻みになっているのも、うすーく切りながら食べる感じに似ています。
素朴な食感に対して、何種類ものスパイスとドライフルーツが入っている複雑な味。辛いような甘いような香りで、ついつまんでしまう。
好き嫌いは別れると思いますが、好きな人はハマる癖のあるお菓子です。

私は何故か完全に諸戸側に立って読んだので、オム・ファタールに巡り合ってしまった青年の、切ない純愛小説として受け取りました。
予想とは全然違いましたが、とても良い読書だったと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました🌸

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