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うどん屋にてサークルを想う

1.うどん屋(の外)の思い出

乗り換えのときにいつも見ていた上野駅のうどん屋さんに、はじめて入った。

昔入っていたサークルの公演を見に行くついでに、上野駅あたりでうどんが食べたいな、と調べたら出てきたお店。
しかし店の前に着くまで、私はその店のことをすっかり忘れていた。

私がそのサークルで現役だったころ、サークルの公演練習の帰り道、乗り換えのときによくこの店の前を通っていた。

サークルの同期は十数人いたけど、サークルの練習の最後まで残る私と帰りのタイミングが重なる人は少ない。
さらに、上野駅で乗り換えるのは埼玉県の実家から通っている数人だけ。日によってはひとりで乗り換える日もあった。

公演の練習が終わるのは夜9時や10時。
都内の練習場所から埼玉県に帰るまでには、さらに1時間以上がかかる。

私たちがこの店の前を通るときには、いつもお腹が空いていた。
しかし実家住みの私たちには、母が作ってくれるご飯がある。
カレーうどんの匂いをかいで、疲れたねー、家遠いね、お腹空いたねー、と言いながら、うどん屋の脇のエスカレーターで上野東京ラインのホームに上がっていた。

2.サークルの思い出

私たちが所属していたのは、バレエのサークルだった。
バレーボールではない、踊る方のバレエ。白鳥の湖とかのバレエ。

バレエの舞台は華やかに見えるけど、その実、練習は地味だ。
毎日同じような基礎のバーレッスン。
練習だって、舞台のその日まで毎日同じ踊りを踊る。
1曲踊れば息が切れるし、練習終わりには汗だくである。

トウシューズってアクロバティックだよね、つま先痛くないの?とよく聞かれるけれど、もちろん痛い。おそらく私以外でも、多くの人は痛いはず。

さらに公演の練習をしていると、どんどん体調不良を訴える人が増えていく。
足が痛い、腰が痛い…
38度の熱が出たので休みます…
最近食欲なくって、気づいたら5キロ減ってた…

それでも、皆バレエが好きだった。
サークルが好きだった。
私もそうだったから、頑張れた。

私は公演の通し練習で、先輩や同期や後輩の踊りを見ているのが好きだった。
普段どんなにふざけている人でも、曲がかかればおとぎ話の世界の人になる。
そんな瞬間をはげみに、毎日スタジオに通っていた。

↑一度だけ貰ったソロの踊り。大学2年の秋。練習のおかげで痩せすぎて、成人式の前撮り写真のアゴが別人級に細い…という問題にまで発展。

3.うどん屋を見ていた頃がまぶしい

今は社会人になって、日々仕事に追われている。
今、現役時代と同じようにサークルに身を捧げてほしいと言われても、おそらく無理だろう。
体力も落ちたし、精神的エネルギーももう尽きてしまった。

さらに言い訳をするなら、現役時代にいためて、それでも「舞台前に休んでる場合じゃないから!とにかく練習したい!踊りたい!!」と無理してきた足の怪我を、もう悪化させたくはないのだ。

そのことを思い起こして、今の自分を振り返る。
今の仕事をしている私だったら、そんなに無理はしないだろう。
足をいためた時点で自主練くらいはサボるだろうし、病院にも行くだろう。

とにかく練習したい!!怪我を悪化させても舞台に影響がでなければ良い!!と思えていた若い自分が、まぶしくて仕方ない。


今の私の悩みは、仕事のストレスのせいで毎週末風邪を引いていることなのだが、それと比較していろいろ考えてしまう。

とはいえ!
数年越しで食べた上野駅のうどんは美味しかったし、サークルでの日々は私の拠り所になっている。

そしてこれから、サークルの後輩たちの舞台を観に行く。
サークルと出会って、初めてお客さんとして舞台を観に行くので、なんだか落ち着かないが…
若い後輩たちの血と汗と涙の結晶の、おこぼれにあずかってこようと思う。楽しみ。

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