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おいなりさん

一日に一回しか食事をしない
単に買いものに出るのがイヤだから
それが主たる理由
食材は、チビチビ使う

食費をギリギリまで切り詰める
それが目的ではなかった
自分でも勘違いしてしまいそうになる
言い聞かせないとならないくらいに

外に出る、と気持ちを傾けていく
なかなかに難しい
玄関に近づくのもためらわれる
そんなときもある

玄関をくぐって一歩
足を出してみる
多くの人たちにとって
つゆほども意識する必要のないこと

逞しい妄想と言われても否定できない
自らをがんじがらめにしてしまう
魔物か何かに獲って喰われでもするんじゃないか
アホみたく考えてしまう

外に出る
自分にとっては
甚だ難儀な大事業
大げさに言ってるわけではなくて

少しは食べてるのぉ?
ホノカが母親みたく言ってくる
実際、母親から言われてる
たぶん、そうなんだろう

確認したことはない
けど、想像に難くない
たびたびホノカがボクのアパートに来るようになった
そのころは、そう思っていた

何かしら
それは
たいがい食べものなんだけど
ホノカが持ってくる

会うたんび、顔が細くなっていくのが分かるんだろう
自分でも、げっそりしたと感じるくらいだ
隠したいが、隠しようがない
仕方がない

そういったこと
ホノカが母親に伝え
母親がホノカに持たせてる
そういうことなんだろう

ボクは、おいなりさんが好きだ
母親は、それを知っている
母親がおいなりさんをつくり
それをホノカに持たせてる

そう思っていたが
そうではなかったらしい
真相を教えられたのは
ホノカが来るようになって二年近く経ったころ

どういった話の流れでその話題に行き着いたか
もう忘れてしまってる
思い出したくない要素が含まれてるから
かもしれない

ホノカが
自らの意思でここへ来てる
自分の手で
おいなりさんをつくってる

そのことには、もちろん感謝してる
ホノカに対して
けど、それ以上に
自分の母親へのさびしさがあった

あれから三年
いろいろ変化があった
一番に変わったこと
ホノカが来なくなったこと

ホノカのおいなりさんが好きだ
あげの中にこれでもかとごはんが入れてあるおいなりさん
たくさん食べてよね、そういう意図なのは分かる
あげが破れてしまいそうで、見てられなかった

いまは、自分でおいなりさんをつくる
なかなか、うまくいかない
ホノカがつくってくれたような味は
いまだ出せない

ホノカが
ボクの知らないどこかの男と結婚する
そう聞いたときも
ボクは、おいなりさんを食べていたんだった

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