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その日、朝、バスの事故に巻き込まれ、使いものにならなくなってしまったミス・ライカ様の下半身は、数時間ののち、元通りとなっていた、いや、その下半身は、キカイノカラダ、であったから、まったくの元通り、では、ないのだけれど、日常の生活をする上で、という意味では、元通り、と言ってよかった

初め、ライカ様の下半身に装着されていた、キカイノカラダ、は、ごくごく応急処置としてのもの、つまり、マニアワセノシナであった、そのマニアワセノシナを長く使用している者も、いるようなのだけれど、やはり、そこは、マニアワセノシナだ、品質の保証という面では、心配もついて回る、加えて、高校生のライカ様にとっては、なんとも、おもしろ味がなく、また、おしゃれの面においても、つまらないシロモノと言えた

そこで、キカイノカラダ、を、装着して間もなくのライカ様は、その日、放課後、イチゴマイマイマイと連れ立って、電気街へとくり出していった

キカイノカラダ、なんていうのは、いまでは普通に手に入れられる世の中となった、最初の手術さえしてしまえば、そのあとは、専門の施設に行かなくても、スマホの着せ替えだったり、車の足回りを自分好みにするみたく、簡単に付け替えができる、不自由になってしまった者も、それで少しは、気落ちしないで済んでいる

そのようなユーザーの大半は、事故などで不自由になった自身の体への代替え措置として、キカイノカラダ、を、使用しているわけだが、中には、といっても、ごくごく稀に、ということなのだが、自らの意思で自分の人体にナンラカノキガイを加え、不自由にしておいて、キカイノカラダ、を、使用する、そんな、キカイノカラダ、欲しさにおかしな行動をする者も見られるようになり、いまでは社会問題となっている

「決まりそう?」
「うん」

クラスの子と話してもなかなか聞かれない、うん、という返事は、イチゴマイマイマイに、心地よさを与えた

「ライカ様、部活、どうすんの?」

部活の話なんて無粋か、とも、もちろん考えたが、聞かないわけにはいかない

「続けたいけど、たぶん、続けない」
「どっちよっ」

やめると言えば、イチゴマイマイマイもやめるだろうし、続けると言えば、イチゴマイマイマイだって続けるだろう、ライカ様は、そのあたり、よく心得ている、けれど、人の心を完全に見ることができないことへの不安も、やはり、そこにはあった

だから

「やめるんでしょ、なら、わたしもやめる、いても意味ないから」

イチゴマイマイマイの意思表明、分かってた、そう言うのは、分かってた、と思いつつ、ライカ様は、ひどく安心したのだった

イチゴマイマイマイが、自分と同じに部活をやめてくれること、いても意味ないから、と言ってくれたこと、それらへの安心ではない、この先、イチゴマイマイマイをひとり占めできる、そのことへの安心だった

それにしても、危険な賭けだった、事故に巻き込まれたようによそおった、実際は、自らすすんで事故に遭いにいった、けれど、危ない橋を渡った甲斐はあった、万事、いい方へと転がってくれた、これでイチゴマイマイマイの気持ちは、わたし一人のもの、すべてが、狙い通り、計画通り――

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