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こども裁判(短編小説)



裁判長:しいなちゃん
原告人:ぷうくん
被告人:マモ
弁護人:サキ
検察官:じょうた



第一回法廷


事の始まりはこうだった。

さるやま公園でぷう君がゲームの新しいソフトを落としたのだ。
それをマモが拾ってポケットに入れ、家に持って帰ってしまった。

かなりまずい出来事だった。
次の日、学校で裁判が開かれた。

この裁判は親も教師も他の子も知らない状態で休み時間に行われた。
秘密にしたわけではなく、単純にだれも興味をもたなかった。

裁判はなかなか先に進まなかった。

原告と被告がお互いにものすごい勢いでわめきたてて、話にならなかったからだ。
被告(マモ)はあかんべーをして、原告(ぷうくん)は、意義あり!意義あり!とずっとわめいていた。

裁判長がどれだけ静かにしなさいと言っても黙らなかった。
最後に裁判長は鉛筆を握りしめていたこぶしを机に叩きつけた。
鉛筆はまっぷたつに折れてしまった。

マモは、白状した。

家に帰ったとき、お姉ちゃんに見つかってしまったのだ。
拾ったと訴えたマモだが、お姉ちゃんに「だめ。警察に持っていく」と言われ取り上げられてしまった。なので彼の力ではもうどうにもならないらしい。

原告(ぷうくん)は主張する。
 こっそり隠すとか何とかして、学校に持って来い。
被告(マモ)は、抗弁する。
 お姉ちゃんが返してくれないので持ってくることができない。それに学校にゲームソフトを持ってくるのはやばい。

弁護人が手を挙げて発言した。
「マモさんが拾ってポケットに入れたのを見ていたのならなぜ、ぷうくんはその場で返してと言わなかったのですか?原告の主張は矛盾しています」

検察官がやる気がないので、裁判長は【被告人無罪】の判決を下した。

原告は発狂した。

その場でもう一度話し合いが行われ、後日、第二回法廷を開くことになった。




第二回法廷


第二回法廷は行われなかった。

サキが登校して「あれはどうなったの?」と聞くとしいなちゃんは「もういいや」と言ってそれで終了になった。

弁護人は個人的に動くことにした。

独自に調査を行い、まず検察官のじょうたに意見を聞いた。
「こないだのことをどう思いますか」
「解決したんじゃなかったの。むざいでしょ」
やる気のない返事が帰ってきて、
「お前はそれでも検察官か!」
弁護人は叱った。

それから原告の所に行った。あれはマモが悪いからと原告はあくまで主張した。
「あんなくそやろうめ」
弁護人は言い返す言葉が見つからなかったのでその場を去った。

親や先生に言おうと考えた者は誰一人いなかった。
原告はゲームを公園に持ち出すことを親にかたく禁止されていたし、被告の親にマモが殺されかねないほど怒られることは99%確実だった。

それから弁護人も裁判のことはすっかり忘れていたが、被告が隣の席だったので一応意見を聞いた。
するとマモもまた「あれはぷうが悪いから」と言った。

運の悪いことにちょうどそこに原告が通りかかり、その言葉を聞いてしまった。
「異議あり!異議あり!!」
と原告はわめいた。

話にならないので再び裁判長が呼ばれた。
裁判長の意見は、「返さないとただの窃盗じゃね。べつにどうでもいいけど」だった。

弁護人はマモのお姉ちゃんがひとつ上のクラスなのを聞き出し、原告と被告を引き連れて高学年のクラスに向かった。

お姉ちゃんは普通に持っていた。

「これね。はい」

三人はぷうくんの手の中に戻ったゲームソフトをのぞきこんだ。
なぜマモのお姉ちゃんのポケットからすぐそれが出てきたのか不明だった。
もしかすると本当に警察に届けようと思っていたのかもしれないが、何も言わなかったのでわからない。

とにもかくにも事件は解決した。
全てが謎のままでも一応の解決を見れば収束する。

しかしぷうくんはしばらく、特に意味はなく「意義あり!意義あり!」とあちこちで何度も叫んでいた。




終わり


※この作品は完全にフィクションであり、実在する人物・地名・団体とはぜったいにまったく一切、関係ありません。


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