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たまに出会う、すてきな一文

※10分間で書く、下書き・推敲なしのぶっつけ本番エッセイ。毎日更新8日目※

毎日文章を書くこと自体はまったく苦痛ではないけれど、「なにを書こうかなぁ」と脳みそのなかをうろうろすることはある。よくある。毎日ある。

毎日更新するとなるとその頻度はさらに上がるわけで、さぁどうしたものか、と腕を組んでうなっていたのだけど、ひらめいた。すてきな一文を紹介しよう。

本の内容を紹介するのは10分じゃむずかしいけれど、「一文」ならいける。

昨日読んでいたのは、『人間はどこまで耐えられるのか』という本。どれくらいの高さまでなら登れる? どれくらいの寒さまでなら耐えられる? どれくらいの深さまでなら生きていられる? そんな本。

人間の肉体と科学による挑戦史、さらにはその分析と反省、という感じの本。これまたなかなかおもしろい。

で、昨日からは「暑さ」に関する章を読み始めた。そこでは筆者が、鹿児島の指宿温泉に行ったときの話が出てくる。わたしは行ったことがないけれど、飛び上がるほど暑いらしく、長く浸かっていると命の危険もあるんだとか(どんな温泉や)。

そこで出会ったこの部分。

私はおそるおそる体を沈め、熱くなどないふりをした。浴槽の縁に沿って腕を伸ばし、なるべく多くの肌が空気で冷えるようにして、あたりを見回した。熱帯植物とたくさんの池がある巨大な温室の中に座っている気がしてくる。『ナルニア国物語』にあるように、ひとつひとつの浴槽が異なる世界に通じているのだ。ここではそれぞれの浴槽に、異なる水温と成分のお湯が入っている。

わたしはこの、「『ナルニア国物語』にあるように、ひとつひとつの浴槽が異なる世界に通じているのだ。」という部分が、すっごく素敵だと思った。

ナルニア国って、たしかタンス?ワードローブ?かなにかから異世界に飛び込むお話だよね。この人には温泉の浴槽が、そう見えていたんだ。どこか別の場所へ続く、異次元への入り口。入ったらそこには冒険が待っているような、未知でちょっとスリリングで、それでいて試さずにはいられなくなるような、そんな場所。

ただの温泉を、こんなにドラマチックに書くなんて、素敵じゃないですか?

「書く」を仕事にしていると、どうしても「とくべつな体験」がしたくなる。人とちがう経験をすれば、手っ取り早くおもしろい文章にすることができるから。

でもそれはなんというか、ズル……とまではいかないけど、ちょっとこう、トリッキーな手段だと思っていて。

ふだんどこにでも転がっているようなタネを見つけて、それをおもしろい文章としてキレイに咲かせるような、そんな文章を書いていきたいの。だってとくべつな体験って、そんな何回もできるわけじゃないし、いつか書けなくなっちゃうから。だから、日常でタネを見つけたい。

そう思っているわたしにとって、「温泉」をこんなに情緒たっぷりに、ミステリアスに、ワクワクするように書いた一文と出会ったのは、衝撃的だった。すてき!!

心に残った一文は、だけどすぐに忘れちゃうから、こうやって記録しておくのもいいかも。毎日10分エッセイの新たな使い方、発見!

じゃあ、またあしたね。

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