大人になって読み返した『博士の愛した数式』が素晴らしかった

2004年に本屋大賞を受賞して話題になった頃、母に勧められ一読したきりになっていた『博士の愛した数式』(小川洋子さん著)を久しぶりに読みましたのでその話をします。

あらすじをご存じの方も多いとは思いますが、ネタバレ等気にせず記しますので、気になる方はご注意ください。

再読のきっかけとしては、ある人に「これは有名だから一度読んだ方が良いですよ」と言われたこと。いや読んだことあるわい!と思いましたが、そういえばフワッとしか覚えていないなと思い、再読することに。
記憶が短くしかもたない博士、家政婦の主人公と息子、息子がルートというあだ名でなんか良い話、というくらいの思い出で再読に臨みましたが、再読して本当に良かったです。
ストーリーの面白さも勿論なのですが、大人になってから読むと、小川洋子さんの文章力に圧倒されました。

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現在、小川洋子さんのエッセイを読んでいる最中なのですが、その中で小川さんが「小説の余白」を大事にされていることを書かれていました。
何か言葉を選ぶということは、選ばれなかった無数の言葉があるということで、100人いれば100通りの解釈ができる小説を書きたい、と仰っていたと思います。(←手元になく、記憶を頼りにした記載なのでニュアンス異なっていたらすみません)

『博士の愛した数式』は、15年以上前に読んだときはそこまで読み取れませんでしたが、「余白」を非常に丁寧に描かれていて、だからこそ選ばれた言葉たち、モチーフたちが輪郭を持って浮き上がる、そんな印象でした。
最後も、博士の「死」は明確には記述されないんですよね。「形見」という言葉が作中に出てきたり、「最後の訪問になったのは」というフレーズがあったりはするのですが、明確な別れのシーンは描かれていない。
博士と、未亡人Nの関係についてもそうです。博士の思い出や未亡人の言動からして何となく想像はさせるのですが、あくまで想像の域を出ない。
この「余白」感が本当に素敵だと思いました。
(Wikipediaを読むと、割と断言した形で記載があるのがちょっと不満です。笑)

そういった余白がたっぷりあるからこそ、友愛数や完全数などの数字、オイラーの等式、たくさんのメモ、芥子の効いたサンドウィッチと紅茶、江夏豊のカード…などのモチーフがひとつひとつに意味を持って物語を彩っているのだとわたしは感じました。
(すごく細かいのですが、サンドウィッチに入っている「カラシ」を「芥子」と表記しているところ、好きでした。「からし」でも「辛子」でもなく「芥子」を選んだ理由に思いを馳せる余韻もまた良いものです)

本屋大賞については実はあまり詳しくないのですが(この辺りのこといつか書きたい)、本屋大賞の一番の功績は『博士の愛した数式』を世に知らしめたことだと思っています。
そして、話題となった2000年代初期、ある意味わかりやすく面白そうなテーマのストーリーに惹かれて読んだ当時の子供たちは是非大人になって再読してみて欲しいです。小川洋子さんの押しつけがましくない優しさである余白をたっぷり含んだ本作を読むことは楽しく、実の詰まった読書体験でした。

小川洋子さんのエッセイもとても良くて、いま実は2冊同時に併読しているので笑、その辺りもまた読んだら書きたいな、と思います。

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