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海を描こうと思ったのです。

海の絵を描こうと思ったのです。
深い青と真っ白な波しぶきの海岸線が続く海の絵を。

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それは、とある小説の装丁のお仕事をいただいた時のこと。
『自転車少年記』という竹内真さんの小説があります。
新潮社より2004年に発表されました。
2006年には、関ジャニ∞ の安田くんと丸山くんが初主演したドラマにもなったベストセラー小説です。

主人公、昇太と生涯の友となる草太との出会い。
海まで必死にペダルを漕ぎ、強豪高校にレースで挑んだ。
東京発糸魚川行きの自転車ラリーを創り、素敵な恋もした。
少年たちの成長を、『自転車』を通して描いた爽快無類の青春小説ですね。
ドラマ化を機に特別編として『自転車少年記―あの風の中へ』も発売されたのですが、こちらは本編とは全くの別物の小説です。

その『自転車少年記』の発表から7年後の2011年。
続編小説を準備中で、その装丁をデザインして欲しいとお話をいただいたのです。
話の内容としては、『自転車少年記』の主人公・昇太の12歳になる息子・北斗が、卒業式の翌日、自転車にまたがり一人で家を出るという、人生初めてのロングライドを描いたロード・ノベルです。
「昔、東京から日本海まで自転車で行こうとした父さんは、夜、道に迷っても北斗七星を道しるべにして走り抜いた。だから、僕の名前を北斗と名付けた。」
という設定は、『自転車少年記』ファンにはたまらない続編なのかも知れません。笑

日本橋からスタートするそのロングライドには、湘南を抜け、熱海を越え、静岡を抜けるという、太平洋沿いを走る描写があるのです。
僕はそのイメージを思い浮かべていました。
ただ、思った絵を描いてくれるイラストレーターが思い浮かばなかったのですね。
「これは僕が描くしかないか。。。」
一大決心をして、僕は装丁の絵を描くことにしました。

まず浮かんだのは、赤いジャージと真っ青に輝く海。
そう。
僕は海の絵を描こうと思ったのですね。

自転車の絵を描き、背景の空の絵を描き、海の絵をアクリル絵の具を重ねて描きました。
それら手描きの絵をそれぞれスキャンして画像化し、PC上で合成しました。
さらに波しぶきを追加で重ねて。

そして『自転車少年記』の待望の続編『自転車冒険記〜12歳の助走』の装丁用に描き下ろした、美しい海と躍動感溢れる自転車の絵が完成したのです。

※装丁の向きの関係で、太平洋沿いを走る向きとは逆に向かわざるを得なかったのはお許しを。。。ww

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装丁などの絵をイラストレーターに頼むというのはとても難しいんです。
そのイラストレーターにすべてを委ねるならなんの問題もないんですね。
でも、その物語の作家や版元の意見が重要な場合は、イラストレーターの上げる絵が気に入られない場合があるのです。
そのイラストレーターの過去の作品なども見て、複数のイラストレーターの中からチョイスされて依頼したにも関わらず、です。
そんな時は、間に挟まれたデザイナーはたまったもんじゃないんです。笑
イラストレーターをはじめとするクリエイターへのリスペクトがなさ過ぎる作家や担当者にありがちな不幸ですが、そこを譲らないというのもクリエイティブの大事な側面でもありますから、一概に拒否する側だけを責めるわけにもいきませんからね。

でもこの仕事は、イラストレーターにお願いするには時間がなかったし、イラストレーターに僕がイメージしてる絵を描いてもらうというのも失礼な話だし、それに何より、ほぼ僕に決定権を委譲された仕事でしたから、僕がよっぽどヘコい絵を描かない限りは、僕が描くという選択肢は必然でOKなわけです。

頑張ってみた結果、とってもイメージ通りの装丁になったと思っています。
たまーに、本当に稀に、そういう理由で、自ら絵を描き装丁に使う、ということをやってきましたがそれぞれが満足いくものにはなっていますから。
その判断や英断が、その本にとっていい選択であったことを願ってやまないのですけれども。w

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僕は仕事でしか描きません。
僕が絵を描く時は装丁の仕事の時だけなんですね。
それは、普段から絵を描こうとはまったく思わないからです。
曲はいつも書こうと思っていますが、絵は描くという情熱は普段まったくないんです。
それでも絵を仕事で描く時は楽しんでクリエイトしてるんです。
いや、むしろ出来上がった時の快感のために頑張るというか。笑
なので描いてる時はそんなに楽しくはないかも。w
でも絵を描いてそれを素材にデザインした仕事はある意味100%プロデュースのお仕事でもありますからね。
そういう快感や満足感を得ることが出来る希少なお仕事でもあるわけです。
また、いつか、そういう機会とパッションが生まれる仕事に出会えたらいいなと思います。w

もし、読む機会があるなら、是非『自転車少年記』から読んでいただきたいです。『少年記』の登場人物が、当たり前のように説明なく登場するので、その楽しみも是非味わっていただきたいですから。笑



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