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雑談を攻略しよう

未曾有の今学期もいよいよ終わる…
短いようで長いようで、忘れられない3ヵ月になりましたね。

私が受け持った授業のお話です。

今回、大学院進学を目指す上級の学生対象に「コミュニケーションを上手にとる」ための授業をしました。
週1回、90分の授業でした。

☆4月の初めにした会話
教師「(コロナの影響で自粛中)昨日は家で何をしましたか?」
学生1「勉強しました・・・」
学生2「ゲームをしました・・・」
全員「・・・・」
教師「それで・・?」
学生「終わりです・・・」
とても上級とは思えないやりとりでした。

☆6月下旬に同じメンバーとした会話
教師「土日は何してたの?」
学生1「私の好きなアニメのグッズの発売日だったので、池袋に買いに行ったんですけど、店の中が密で怖かったです~!」
学生2「え、○○さん池袋行ったのいつ?私も週末行ったよ。LOFTでこんな(携帯の写真を見せながら)ぬいぐるみがあって、欲しかったけど高かったから写真だけ撮ったよ」

さらに、授業中に窓の外の枠に鳩がやってきた際に
教師「あ、鳩だ!」
学生「先生、鳩っていえば、中国では「やらなければならないことをやらない人」のことを「鳩」って言うんですよー」
と、以前ならおそらくただ鳩を見ているだけであろう学生が、
自分の国の文化について披露してくれました。

*

「日本語の試験はできても、なかなか日本人とうまくコミュニケーションがとれない。」
学生からそんな話をよく聞きます。

彼らは決して「会話ができない」わけではないんです。
既に「お礼を言う」とか「あやまる」「道を尋ねる」といった会話は勉強してきています。
では、具体的にどんなことができないのか?

たとえばエレベーターの中で
誰かと二人きりになった時、
日本人なら自然に出てくるのは
「今日、暑いですね」とか
「毎日雨で嫌になりますね」とか
天気の話や昨日のニュースの話題です。

うまくコミュニケーションがとれないという人達は
これに対してうまく返事ができなかったり、
自分から「天気悪いですね」と切り出すことができない。
なにを話せばいいのかわからず、無言の時間が続く。

アルバイトの休憩室で一緒になった日本人と
気軽に話ができない。無言の時間が続く。

そうすると、
「自分は会話が下手なんだ…」
「まだ日本語ができないんだ…」

と、思い込んで余計に口が重くなってしまう。

そういう学生と一緒に一段上を目指すのがこの授業でした。
簡単にいうと「雑談力を身につける」授業です。

*

これまでも「雑談力」にフォーカスして、
学習者のコミュニケーション力を分析してきましたが
雑談力が足りない原因は大きく分けて3つあると思います。

雑談力が足りない原因
1.雑談のための日本語を知らない
2.「雑談のネタが無い」と思い込んでいる
3.「雑談は必要ではない」と思っている

一つは、「雑談のための日本語を知らない」ということ。
これまで彼らが教科書で勉強してきた日本語には
雑談の表現は少なく、ほとんどが「本題」にあたるものでした。
また、ドラマやアニメに出てくる会話というのも、雑談的要素の会話はなかなか出てきません。
そうなると、会話の内容自体に重点的な内容を持たない雑談の日本語にはあまり触れる機会がなかったのです。

これらに関しては、出会って触れて使ってみる機会を作ればいいと思います。
会話の教材の中には雑談の部分を強化できるものもありますし
日本人同士の何気ない会話を録音しておいて、授業に活かす、というような方法もあると思います。
(私は、同僚の先生方に協力してもらって、雑談会話のサンプルをいくつか撮りためています)

教材としては、清水崇文先生の
「雑談の正体」や「雑談指導のススメ」を参考にさせていただくことが多かったです。
特に「雑談指導のススメ」では
「会話の流れを変える」
「会話に割り込む」
「会話をスムーズに終える」といった
あまり重要視されないことが多いけれど、実は会話の中で一番重要な部分のやりとりが学べます。

ある時、この授業の中で
学生から「日本人の友達とZoomで飲み会をすることになったんですが、
終わりにしたい時になんと言えばいいんですか?」と聞かれたことがありました。

この質問には「ハッ」とさせられました。
我々日本語教師が教えてあげるべきなのは、こういうことなんだよなぁ・・・と。

「日本語のコミュニケーションができない」と思っている人の中には
「会話の終え方が分からないから怖くて始められない」と思っている人もいるのではないか、と思っています。

*

二つ目は、「雑談のネタが無い(と思い込んでいる)」こと。
これは、コミュニケーション能力の高い人と自分を比べた人が陥りがちです。

「コミュニケーション力があり、話題が豊富な人は物知りでどんな話題でも盛り上がれる。」

「それに比べて自分は話題も乏しいし、何の話もできなくて、会話が盛り上がらないんじゃないか…。」
と思ってしまう人が多いようです。

が、実のところ話題が豊富な人というのは
「どんな話題でも「つまらない」と思わない」と思っている人のことなんです。

そういう人は、よく知らない話題が出ても興味を持って話を拡げるのがうまかったり、些細な話題でも様々な視点から話を拡げられる人なんです。

そして、日頃から世の中の全てに興味を向ける姿勢を持っている。
だからこそ様々な情報を吸収でき、結果的に持っている話題が豊富になるのだと思います。

今回の授業では
1.些細な話題を大きな話題として扱う
2.話を拡げる
ことに重点を置いて活動をしました。

学生にはあらかじめ準備をさせ、グループ内またはクラス内で
「周りが知らなそうな話題を披露する」
「自分の故郷特有の習慣や名産を紹介する」
「学生時代に一番楽しかった思い出を
といった話をしてもらいました。

「これは誰も知らないだろう」と思うことを発表させることで
今までよりも念入りに情報を調べてくる人が多かったです。

聞き手は
「相手の話題に3つ以上の質問」をさせました。
自分が全く関心のない話題でも、
その中からなんとか話を拾って、拡げる練習です。

また、Google Classroomを使って
「毎日、携帯の中に入っている写真を投稿してコメントを付ける」
「クラスメイトの投稿に必ずコメントする」
といった課題も入れました。
(本当はInstagramを使おうと思っていましたが、管理上の都合でClassroomにしました。)

こちらは学習者も日頃から慣れているから簡単にできるのかな?
と思いきや、
はじめのうちは
「何を書けばいいのかわからない」と困る学生続出でした。
そこで、日ごとにテーマを決め(昨日食べたもの、旅行の写真、部屋の中、等)
写真とコメントをアップしてもらいました。
1か月もすると、各自が自由な内容でアップできるようになりました。

一つ目の「雑談の日本語表現」も身に付けていきたいので、
毎回の授業で何気ない会話として扱えるような表現を紹介し、それらを使うこともポイントでした。  

毎日、毎週これを続けていくうちに、
初めは単なる紹介、ごく短いコメントしか言え(書け)なかったのが
次第に話を拡げられるようになり、
相手への質問も徐々に凝ったものができるようになってきました。

*

さて、最後の「雑談力が足りない人の原因」ですが、
これが一番大きい要因かもしれません。
「雑談を大切だと思っていない」ことです。

雑談=無駄口、と捉えてしまうとネガティブなイメージですが、
雑談には重要な機能があり
「本題をスムーズに進める」ことや
「コミュニケーションの温度を上げる」のに不可欠です。

ある時、学生と「沈黙」について話をしました。
その時初めて知ったのですが、
中国では、たとえ目上の人と二人きりの空間に沈黙が流れたとしても
失礼だとか気まずいといった感覚にはならないそうです。
そこでお互いが携帯をいじって無言の時間になっても、特に失礼にはあたらない、と。

そこで今までのもやっとした違和感が解けた気がしました。

雑談に対する感覚がまるで違った!

日本では沈黙にならないように、
相手が困らないように、
あの手この手で話を続けようとする人が多いのに
彼らは全く違った。

それはむやみに「雑談しろ」と言ってもできない人が多いわけだ…

これについては、学生に日本の沈黙に対する感覚を説明しました。
私も学生もお互いにびっくりした瞬間でした。

が、
学生の雑談力が急に上がったと感じたのは、
この直後でした。

*

学校で授業を受けるからには、
学習者には達成感を感じてほしいと思います。

こうした授業ではどうすれば感じられるのか?

色々考えた結果、
最初の授業と、3ヵ月経過した授業を録画して学生と一緒に見比べることにしました。
それがこの記事の最初のやりとりです。

学生自身も「前より色々話している自分がいる」とか
「今まで見なかったようなニュースも見るようになった」と言っていました。

また、ほかの先生方からも
「よく話すようになった。
それどころか人の話に割り込むようになった」と言われました。

割り込みは、次の課題ですね…。

*

雑談力をあげるには、
何が正解かはわかりません。

その時の学習者によっても違うし
そもそも一定期間のみで習得できるものではないと思います。

なので、授業では「雑談力に対する発想の転換」をゴールとしています。
ここで少しでも何かが変われば、
あとは自ずと身につくことだと思います。

そうして、コミュニケーションをとる楽しさと便利さを知ることが、彼らのゴールだと思います。

雑談力については教師側の再認識も必要だと思います。
雑談とは何か、どんな役割があるのか、何を話せばいいのか。
私も今回の授業を通して、改めて色々なことに気づかされました。

ただ、何よりも私が彼らと話すことが
本当に楽しい3ヶ月間でした。







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