見出し画像

友の会会員が選ぶ「今年の3冊」DAY.10 Part.2

やすだともこ選:やっぱり「本」が好き、と思った今年の3冊

今年は、初めて出版にまつわることで収入を得ることを辞めた(諦めた)年でした。本が好きで取次に入社し、本が作りたくて編集プロダクションで編集者となり、本の魅力を伝える手段として(ALL REVIEWSではない)書評サイトの可能性を感じに行ったり…。

初めて出版業界や出版業界で生きる人たちを、外の人として観た1年。心に残ったのは、結果として出版や本にまつわる3冊でした。

1.  窪美澄 『トリニティ』 (新潮社、2019年3月)
2. 菅谷明子『未来をつくる図書館』(岩波書店、2003年9月)
3. 「ユリイカ」 2019年6月臨時増刊号 総特集◎書店の未来 ―本を愛する全ての人に―(青土社、2019年5月)

入り込みすぎて、心が揺さぶられるのです
〜窪美澄 『トリニティ』〜

画像1

窪美澄 『トリニティ』は、50年前、出版社で出会った3人の女性ーフリーライター、イラストレーター、出版社の事務職のち専業主婦ーの物語。

50年前といえば、「anan」がちょうど創刊されたころ。女性ファッション誌が最も華やかに花開きはじめる時代です。その渦中にいた出版界の女性たちの華やかさと泥臭さがないまぜになりながら突き進む姿と、年を経た彼女たちと今の出版界との斜陽っぷりに、読み進めるほどに、時代とともに生きるとはこういうことなのか、といたたまれなくなる。

その斜陽になり始めたころに就職したのが私たち世代。全盛期を作ってくれた人たちへの当時のほのかな憧れと、その後の変化への哀しみを、読み進めるにつれ否応なしに突きつけられるのは、苦しくもありました。

一方で、彼女たちが昨今のシルバー世代の女性の若々しさをを牽引してくれていると考えると、感謝の気持さえ湧き起こります。

感情があちこち揺さぶられて、胸が苦しいけれども、止められない。そんな1冊でした。



図書館は本がいっぱいあるだけでは意味がない
〜菅谷明子『未来をつくる図書館』〜

画像2

フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」。3時間半の上映を終えたとき、神保町の岩波ホールから水道橋駅まで放心状態で歩いて帰った。すごい図書館を見てしまった。いや、あれは図書館だったんだろうか?

ニューヨークの五番街と42丁目が交差するというマンハッタンど真ん中にある公共図書館。図書館といっても、本や雑誌、新聞、少しの視聴覚材料があるだけの日本の図書館とは大違いです。

社会的地位や国籍などを問われずに、誰もが無料でアクセスできる

ありとあらゆる「情報」にアクセスができ、過去の記録、例えば、舞台を例にとると、舞台装置の記録や、振付家のノートだったり、驚くほど広く深い情報がアーカイブされている。さらに、今情報にアクセスしにくい人には、インターネット環境を提供するサービスがあったり、学ぶ環境を提供するサービスがあったり、人と人をつないだコミュニティ形成からの情報共有があったり…。

そこからは、新たな文化が生まれ、ビジネスが、才能が生まれている。

映画の復習、として読み始めた本書、読めば読むほど、日本の“情報”への価値の考え方に、がっかりしてしまう。でも、世界のある場所に、細かなもののアーカイブの価値や情報への入り口が用意されてることの価値に、心躍ってなりません。こんなにワクワクする岩波新書、初めてでした。


書店の未来と、本の未来を考える
〜「ユリイカ」 2019年6月臨時増刊号〜

書店の未来

3冊目は「ユリイカ」のムック。我らがALL REAVIEWSの由井さんが寄稿しているものですよ!
(「絶望からはじめようー出版業界を辺境から観察するひとから見た出版と(オンライン)書店」」要チェックです)

作者や作品が注目を集めることはあれど、書店の話題やニュースは社会的に見ても暗いものばかり目につきます。でもこの本は、“影もあり、強烈な光もあり”。書店の中の人や取次の中の人、再販制度という日本の出版業界ならではの制度から見たメッセージがぎっしりつまった1冊です。

なかでも、

出版市場は、紙の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額が、1996年の2兆6500億円から、20年余りの間に、1兆3000億円へと約半分になりました。しかし、出版点数はそこまで減っていません。1996年頃には年間6万から7万点であるのに対して、現在も約7万5000点のタイトルがでています。
出版社は、タイトル数を増やし、どんどん本を刊行し、取次に出荷し、代金を受け取り、返品が戻るまでに次の作品を作る、という循環構造で動いているのです。

という事実はALL REAVIEWSの鹿島茂先生の巻頭言

出版危機の根源は「書物の消費財化」にあります。
書物がロング・セラーであることを自ら放棄し、ショート・セラーである道を選択したときから出版危機は始まっています。
本を本来の姿である「耐久消費財」に戻さなければなりません。

というメッセージを数字で体現していると思うのです。とにかく点数を出す、出す側は資金繰りのために致し方ない。作る側は、作ったものが売れないからギャランティは減る、丁寧に作れなくなるし、作れども作れども暮らしも心もつらくなる。編プロにいたころ、辞める直前に感じていた、そのままです。

そのために最も有効なのが、過去に書かれた書評です。

本は、腐りません。耐久消費財でありうるのは、本が「モノ」であるとともに「コト」の詰まったものであるからだと思うのです。

仮想現実をかんたんに体験できる世の中が到来しつつありますが、文字から、平面の絵から、イメージを膨らませながら読むゆえに広がる世界。考えるだけで、楽しくなります。その「本」に出会う入り口が、過去・今・そして未来の書評の集まる「ALL REAVIEWS」であればステキだなと考える、令和元年の年の暮れです。

そして、令和2年は、箱根本箱に必ず行きたい!


【記事を書いた人】やすだともこ

【「ALL REVIEWS 友の会」とは】
書評アーカイブサイトALL REVIEWSのファンクラブ。「進みながら強くなる」を合言葉に、右肩下がりの出版業界を「書評を切り口にしてどう盛り上げていけるか」を考えて行動したり(しなかったり)する、ゆるい集まりです。
入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。
友の会会員同士の交流は、FacebookグループやSlackで、また、Twitter/noteで、会員有志が読書好きにうれしい情報を日々発信しています。
友の会会員の立案企画として「書評家と行く書店ツアー」も、フランスのコミック<バンド・デシネ>をテーマとしたレアなトークイベントや、関西エリアでの出張イベント等が、続々と実現しています。リアルでの交流スペースの創出や、出版の構想も。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?