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友の会会員が選ぶ「今年の3冊」DAY.1

みなさん、こんにちは!ALL REVIEWSの由井緑郎でございます。

昨日の「ALL REVIEWS 友の会ってなんでしたっけ?」という記事から引き続き、今日から「ALL REVIEWS 友の会会員が選ぶ『今年の3冊』」がはじまります!

この企画、「今年の3冊」といっても、「今年発売された本」を対象にしているわけではありません。
ALL REVIEWSは新刊ばかりを追うサイトではなく、「優れた既刊本を再発見する」という側面も大きい。
それがゆえにこの企画は「ALL REVIEWSのファンクラブに入るくらいの本好きが2019年に読んだ最も面白かった3冊を紹介する」という主旨になっております。

ぼくは、ひとりブラック企業みたいなもんだったので、今年「セルフ働き方改革」を行い、結果、ずいぶん本が読めるようになりました。

簡単にいうと、

・飲み物は基本「からだを想うオールフリー」
・6-7時間は寝る
・1日10,000歩くらい歩く
・22時くらいから、酒に頼らず、眠くなるまで本を読む

これで痩せるし、睡眠の質の向上により日中の作業効率が爆上がりするし、健康になるし本も読めるしステキな毎日になりました。つまり酒飲みが酒を「からだを想うオールフリー」に切り替えると読書がはかどり人生もはかどる、ということになります。よろしくご査収ください。

おもしろい本を読んだら人に勧める。今日から個人でできる出版業界盛り上げ策です。では「今年の3冊」、トップバッターはぼくが務めさせていただきます!

①ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(柴田裕之訳・河出書房新社)――イスラエルの若き天才歴史学者による「人類の説明書」

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完読するにあたり、「自身の人生は『長く分厚く禍々しい人類の歴史』の末端に付属しているチョボっとしたもの」という、「なんくるないさあ」的な新しい人生観を得ることができます。つまり、心が少しラクになります。

例えば100万年前に生きていた人類は、脳が大きく、鋭く尖った石器を使っていたにもかかわらず、たえず捕食者を恐れて暮らし、大きな獲物を狩ることは稀で、主に植物を集め、昆虫を捕まえ、小さな動物を追い求め、他のもっと強力な肉食獣が後に残した死肉を食らっていた。
40万年前になってようやく、人類のいくつかの種が大きな獲物を狩り始め、ホモ・サピエンスの台頭に伴い、過去10万年間に初めて、人類は食物連鎖の頂点へと飛躍したのだった。

そのうえで、ぼくたちホモ・サピエンス(ラテン語で「賢い人間」の意味)は「認知革命」と呼ばれる謎の脳の構造変化(進化)を経て、他種を圧倒する知性と残忍性でネアンデルタール人など他のホモ属を絶滅に追い込み、ひたすら自分たちの発展のためだけにありとあらゆる資源を使い込み、他の生物を無軌道に完膚なきまでに絶滅させまくり、生き残るために小麦を作ったのに小麦を作るためにどこにもいけないようになり自らどんどん不幸になっちゃうし、食えそうな動物は体の向きさえ変えられないような檻に入れて太らせてから食うっていう恐ろしいこととかを総出でするし、繁殖しまくっても同種同士で殺し合いしまくっちゃうし、今度はやれ宗教だ、帝国だ、貨幣だ、政治だ、経済だ、農業だ産業だなんつって、いままでの何十万年かはなかったことのように2-3000年そこいらで急激に繁栄し、禍々しい気の遠くなる営為の積み重ねの果てに、今度は自分たちを超越する知性を作り出そうとし、ゴリゴリに使い倒してきた地球という場所をもはや捨て去って、電子空間に居を移そうとしている――。

こんな感じにホモ属の数百万年の全ての歴史を数時間のうちに一気に脳に叩き込んでくる本です。情報量が多すぎて、ぼくのように脳がツルツルな人間にとっては、「情報禍」ともいえる本。しかし、ストーリーテリングの恐るべき巧みさにより、どんどん頭に入ってきます。

昨今、「極端な冷酷さ・無慈悲・エゴイズム・感情の欠如・結果至上主義」を特徴とする「サイコパス」という人の存在がよく話題にあがりますが、『サピエンス全史』を読むと、人類はそもそも「サイコパス」な存在なんだろうなあと思わざるを得ません。けどしばらくすると、自身がチョボっとした存在であることをよくよく噛み締められるようになり、「サイコパスだろうがなんだろうが別に問題ない、この長ーい円環のなかで、自分が少なくともできることは何か?」と考られるようになるはず。

以上を踏まえたうえで、この本は最後に、現代のぼくたちが、次の段階へ進む過程の熱い真っ只中にいることを示唆してくれます。

現在進行中のあらゆるプロジェクトのうちで最も革命的なのは、脳とコンピューターを直接結ぶ双方向型のインターフェイスを発明する試みだ。(中略)そのようなインターフェイスを使って脳を直接インターネットにつないだらどうなるか?(中略)もし脳が集合的なメモリー・バンクに直接アクセスできたら、人間の記憶や意識やアイデンティティに何が起こるのだろう?(中略)心が集合的なものになったら、自己や性別のアイデンティティなどの概念はどうなるのか?(中略)
そのようなサイボーグはもはや人間ではなく、生物でさえなくなるだろう。

ホモ・サピエンスが非生物へ進化していくさまを、少しでも長い時間見つめていたい、なるべく長生きしたい! そう思わせてくれる一冊です。


②成毛眞『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)――アマゾンの絶望的なまでの巨大さを教えてくれる一冊

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取り立ててちゃんとした出版業界への知識もなくALL REVIEWSをはじめて2年が経とうとした2019年6月、突然雑誌「ユリイカ」の「書店の未来」特集に寄稿させていただくことになり、ぼくは急いで業界の勉強をはじめました。まずはアマゾンで人気の「出版業界本」を十何冊も一気買い。

中でも圧倒的に衝撃的だったのが、成毛眞さんの『amazon 世界最先端の戦略がわかる』です。他の出版業界本を並行して読むことで日本の出版の構造との比較ができ、改めてアマゾンのビジネスサイズの途方もなさを感じることができました。

じつは、ネット通販事業全体では儲けが出るどころか赤字なのがアマゾンの実態だ。2017年のアマゾンの会社全体の営業利益が41億ドルに対して、一事業部門に過ぎないはずのAWS(※)の営業利益が43億ドルなのである。AWSがネット通販事業の赤字を補い、会社を支えていることがわかるだろう。(※由井注:Amazon Web Services・企業向けの、大きく分けて90以上、細分化すると700以上ものクラウドサービス)
アマゾンの小売りの特筆すべき点は、「お客様への圧倒的なサービス」である。年会費を払ってプライム会員になれば、映画やドラマが見放題で、楽曲も100万曲以上聴ける。写真も保存し放題で、日本では書籍や食品が当日に配送される。
これらの大胆なサービスも、すべてAWSの稼ぎがあるからだ。他の部門で稼いだ資金を別の部門に回せる。これが他の小売企業にはないアマゾンの強みのひとつであり、それこそが競争相手にとっての悪夢である。

2018年4月、「Amazonが2017年の研究開発費に総額約2.5兆円を投資していたことが判明」というニュースが出ました。対して、日本の出版業界の市場規模は2017年では1兆5916億円(全国出版協会調べ)。そこには「本気出せばアマゾンは日本の出版業界をまるっと買えちゃうんだ…」というオドロキがありました。そもそもアマゾンにとって、縮小を続ける日本の出版市場は魅力的に映っているのか? そういう次元にはもはや在らず、システマティックに、取次からだんだんと、蛇に飲まれるがごとく侵食されていくばかりでしょう。

ぼく個人としては、日本の出版業界最大の敵は、アマゾンなどではなく、「無関心さ」にあると考えています。書店がなくなっていく、という明確な事実に対して、本気で対案を考え自ら行動しようとしている出版人は、いまの日本にいったいどれくらい存在するのか。

この本は出版関係者にこそ読んでほしい。必ず新しく、そして大きな視点が得られるはず。「お釈迦様の手のひらで頑張っていた孫悟空」の気持ちが存分に味わえるが、そのうえで「打倒お釈迦様」を試みたくなる一冊です。


③堀江貴文『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』(ダイヤモンド社)――「ホリエモン」を「サーガ」として嗜むための入門書

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ネットニュースとして切り取られる「ホリエモン」だけを見てると、つくづく「ふてぶてしくてイケ好かないヤツ」と感じちゃうと思います。あまりにデリカシーに欠け、自由すぎる。
けれど、この『ゼロ』を読むと「ホリエモン」の言動を「壮大な物語」として眺められるようになります。

「ライブドア事件」を経て、2011年から2年過ごした刑務所。硬い布団に横たわり思い出すのは、田舎道で曾おじいちゃんの骨ばった背中におぶわれている、2歳の時の自分――。
ホリエモンは愛情表現が苦手な両親のもと、福岡の山間部で少年期を過ごした。テレビでの野球観戦だけが趣味で、よく酔って暴力を振るう父。母はヒステリックを通り越した性格で、怒ると包丁を持ち出すこともあった。小学生の頃には、自分の家が周りと違うことに気づく。

僕は寂しかった。家庭の温もりがほしかった。親を心底嫌いになれる子どもなんて、そうそういない。両親にはそれぞれ自分の実家があるのかもしれないが、僕には「この家」しかなかったのだ。兄弟もほしかったし、明るい笑顔がほしかった。

巨人戦を観戦するためのテレビ以外、なにもない家。ホリエ少年はただひたすら百科事典を読みふけった。そのせいか、小学校から成績はバツグン。そのまま進学校に進むが、毎日はあまりに退屈。「ここから脱出するため」東大に進学、インターネットに出会い、起業。持ち前の「ハマる」力を発揮し続けて時代の寵児に、そして一転、「ライブドア事件」を経て全てを失う――。

本書の後半は、「事件」からの再起にスポットライトが当てられており、ホリエモンが自身をビルドアップする過程で獲得した人生や「仕事」においての哲学が語られています。いずれも納得性が高いのは、彼が考え抜いて行動し続けた軌跡が、本書の前半においてみずみずしく描かれているからではないでしょうか。集中して読めば2時間で読み切れますし、ぼくにとって、仕事において気合を入れたい時に読む「座右の一冊」となっています。悩める一般人が読むと、ドバドバとアドレナリンが出て「仕事」がしたくなること、間違いなしです。

ホリエモンは一日にしてホリエモンに成らず。彼は自らを「どこにでもいる、普通のさえない田舎の少年だった」と言います。確かにこの本の中の「ホリエ少年」は、かつて少年少女だったぼくたちと同じことを考えます。

「僕は、死ぬんだ」
人はみな、いつか死んでしまう。お父さんもお母さんも、いつか死ぬ。そして僕も、死んでしまうんだ。この世から消えてなくなってしまうんだ……!!
あたりの景色が暗転したような、猛烈な恐怖に襲われた。気がつくとその場にうずくまり、うなり声を上げながら頭を抱えていた。僕は死ぬんだ。消えてなくなるんだ。死んだらどうなるんだ、僕はどうすればいいんだ!! 嫌だ、嫌だ、死にたくない!!

ナイーブな「ホリエ少年」は、自身をどんな批判にも目もくれない強靭な「ホリエモン」に作り変えていき、収監を経験したことでさらにタフな「新・ホリエモン」となり、いまや民間単独で国内初のロケットの打ち上げに挑戦したり、ミュージカルの主演をしてみたり、本気で不老不死に取り組んだりするようになる。ホリエモンはどこからきて、どこにいくのか? 彼の言動は一見、理解不能に思えますが、この本でホリエモンの原点(ゼロ)を知ると、不思議とその行動原理が理解できるようになり、むしろ彼を応援したくなってきさえします。

僕がそうであるように、あなたもきっと「ゼロ」である。これからどうやって「イチ」を足していくのか。いや、その前にどうやって最初の一歩を踏み出すのだろうか。ヒッチハイクからはじめてみるか、飲み会の幹事からはじめてみるか、さっそく起業に動きはじめるか、進む方向やスピードはどうでもいい。とにかく「ゼロのままの自分」に見切りをつけ、一歩を踏み出すことだ。
僕はあなたの人生に直接手を触れることはできない。
決めるのは、あなただ。
自分の人生を動かすことができるのは、あなただけなのだ。

好奇心のままに突き進む「ホリエモン」の一挙手一投足が、リアルタイムで進行する至上のエンターテインメントへと変わる、そして、自らもホリエモンのように「行動」したくなる、不思議な一冊です。


【この記事を書いた人】由井緑郎
ALL REVIEWSの運営です。中の人としていままでずっと一人でしたが、「友の会」「サポートスタッフ」という仲間を得て、とても嬉しい。ホロリ。
ビジネス書をよく読みますが、意識は限りなく低いです。ラーメンのことと、楽しくラクに生きるにはどうしたらいいか、しか考えていません。

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