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境内の柳の木の下で、理想の恋に出会えるかも。 六角堂「えんむすび御守」

◆この記事を書いた人
京都外国語大学国際貢献学部グローバル観光学科2回生 剱物真桜(けんもつ まお)


 京都駅の正面から北へまっすぐ伸びる烏丸通。北は今宮通から南は久世橋通までおよそ6.6km にわたって京都市中心部を南北に貫いている、京都を代表する目抜き通りである。通りの周辺には京都御所や相国寺などの歴史的な施設はじめ、大谷大学や同志社大学や平安女学院といった文教施設、イオンモール北大路や新風館、COCON 烏丸などの商業施設まで、さまざまな施設が集まっている。また御池通から四条通までのエリアは京都市有数のオフィス街として知られているのだが、そのオフィス街のど真ん中に突如として現れる小さなお寺が、ここ六角堂頂法寺だ。こぢんまりとした境内にそびえる六角形のお堂は、聖徳太子創建ともいわれているのだという。

伝わるところによれば、聖徳太子がこの地を訪れた際、念持仏として持っていた如意観音像を木にかけて、池で沐浴すると、如意観音像は木に張り付いて動かなくなってしまったので、仕方なくその場で夜を越すことにした。すると夢枕に観音様が立ち「この地にとどまり、もっと多くの人々を救いたい」と告げられたことから、御堂を建てて安置したことが六角堂の由来だとされている。

 古くから京都の中心にある六角堂だが、じつはこれまでに本堂は十数回焼け落ち、さまざまな危機に見舞われてきた。そのたびに、いけばなの門徒や仏教の信徒、町衆によって何度も再建され、大切に守られてきたという。その理由は、六角堂が町衆たちの大事なことを決めるときに集まっていた寄合であったこと、また華道の家元として天皇家・武家屋敷ともつながりが深かったためなのだとか。京都の中心部に立つ六角堂は、まさに京都の人々の精神的な中心でもあったのだ。




一方で、いけばなの発祥地としても知られている六角堂。初代住職は遣隋使として有名な小野妹子と伝えられており、彼が隋で学んだ仏前に花を供える文化を伝え、ここ六角堂で発展したことで、すでに室町時代には日本独自の「いけばな」が成立していたといわれている。六角堂の住職を代々務める池坊家は、花を供える中で工夫を加え、室町時代後期にいけばなの理論である「池坊専応口伝」と呼ばれる花伝書を著した。池坊とは精神性や大自然を表現するものであり、省略の美を大事にし、できるだけ少ない素材で生けるということが花伝書には記述されている。池坊では花だけではなく枝や実、枯れかかった葉さえも生けるのだという。そこには、生まれてから滅びるまで、生きているものはすべて美しいという池坊の哲学が示されているのだ。



 さて、今回ご紹介したいのは、このかわいらしい紅白の梅のかたちをした縁結びのお守り。

縁結びの御利益の由来は、境内に入ってすぐ正面に見える「六角柳」にあるという。じつは

この柳にも平安時代より伝わる、ある逸話が残されているのだ。嵯峨天皇が美しい妃がほしいと願ったところ、夢枕に六角堂の如意観世音が現れ「六角堂の柳の下を見なさい」とのお告げを授かる。そこで嵯峨天皇は早速、その場へ人を遣わしてみると、木の下に絶世の美女が立っていたのだという。この逸話から六角堂の柳に願うと良縁に恵まれるという話が広まり、いつしか「縁結びの柳」と呼ばれるようになった。お守りのかたちはおめでたい「松・竹・梅」のなかで唯一、花を咲かせる梅をかたどり、いけばな発祥の地らしく「お花で結ばれる」との意味が込められているのだとか。なんともロマンティックなエピソードに彩られた、とってもキュートな恋のお守りなのだ。

 さまざまな歴史や伝承が残る六角堂。じつは境内の数カ所に隠されたなぞかけが仕掛けられているのをご存知だろうか。たとえば、六角堂はその名の通り六角形の形をしているのだが、そもそもなぜこのかたちをしているのだろうか?


 じつはこのかたちは「眼・耳・鼻・舌・身・意」という人間の持つ「六根」を表し、この

六根によって生じる六欲に由来しているのだそうだ。そしてこの六根に角があると、正しくものを見たり、物を言ったり、聞き取ったりできなくなるのだという。正しく働いていれば尖りは丸くなり、正しく世界を感じ取ることができる。つまり、その六つの角(欲)を捨て「六根清浄」を祈る。そのため六角のかたちをしているのだ。

 ほかにも「池の鯉は黒、金、銀の三色の種類しかいないのはなぜか?」「聖徳太子が沐浴したと伝えられる池には白鳥が住んでいるが、なぜ白鳥は飛んで逃げないのか?」などなど、さまざまな謎解きをしながら境内を歩いてみると、これまでとは違う新しい世界が見えてくることだろう。六角堂で素敵な縁を祈願したあとで、京都のあらゆる場所やモノに隠された由縁や起源、意味やその理由について考えながら街を歩いてみると、いっそう楽しい旅になるかもしれない。

◆六角堂 公式サイト


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