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【千字掌編】シンデレラは土曜の聖夜に結ばれる……。(土曜の夜には……。 #23)

「紗英さん、もーらい!」
「はい?」
 ばっと横抱きにされて抱えられる。
「ちょ、ちょっと! いきなり何よ」
「え? 紗英さん独身でしょ?」
 目の前の青年は平気な顔して言う。
「私、一人暮らしのマンションでも買う四十のおばさんよ? あなたとは孫ほど年が離れているのよ? 冗談はよしなさい!」
「いいじゃん。一目ぼれだし、紗英さん四十に見えない」
 平気な顔して相変わらず、結婚すると言い張る青年に財布からカードを出す。
「ふふふ。私はクレジット女王よ。この負債を返せるの?」
「もちろん! 俺、金持ちの息子だもん。だけど、これは払ったら解約ね。欲しいものは全部買ってあげるから」
 カードを奪われる。
「って。こんな婚姻。お金持ちなら許されないわよ」
「だいじょーぶ! 俺が今、当主だし、母は離婚してて嫁姑問題もないし、父はもう何も言わないし、親戚なんて鶴の一声で黙らせる」
「親戚にいじめられるじゃないの!」
 悲鳴に近い声を上げてなんとか降りる方策を考える。このままだと、お持ち帰りだわ。
「家には親戚は住んでないし、親父との男暮らしに女性という可憐な花が入るんだ。文句はない。作法もいらないし。勝手に結婚式あげていいからね。そうだ。クリスマスの聖夜に結婚しよう。それまでは、同棲。さ。帰るよ」
 青年は私を下すと手を引いて歩きだす。当主といったこの青年は、私の三十年近くの推しとそっくりの顔。ちょっと、浮かれてお茶したらこのありさま。聖夜に結婚ですってー? 不妊治療もできない年齢なのに。跡継ぎどーすんのよ!!
「あ。養子とるから。年齢はもはや関係ないの」
 まるで心の中を読み取ったみたいに言うこの推しにそっくりな青年。
「ちょっと、さっき名乗った名前偽名じゃないでしょうね?」
「偽名だよ。本名は吉野誠。本名名乗ったら逃げるじゃない」
「吉野って……。あの吉野財閥?」
「ピンポーン。さぁ、このままじゃ体が冷える。帰るよ」
 こうして私のシンデレラストーリーが始まった。


あとがき
久々の土曜シリーズです。夢の中での話をもとに書き出してみました。そして日も季語でてます。「聖夜」これも冬の季語です。クリスマスとするには露骨なのであえて、雰囲気を大人っぽく聖夜に。秋のシリーズは少なかったなぁ。まとめられるのだろうか。夏は前後編で編集したのですが。例によって例のごとく「小説家を支援する会」様に提出済み。でもkindle化してもいいな。でも文字がたりない。いつになったらたまるんでしょうね。
ということで、今日は更新日なので(ずれた)あとで最後の眠り姫を更新します。よろしくお願いします。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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