【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十一話 愛の贈り物
前話
何日かは街の宿屋に泊まれた。カタリーナとはしゃいで隣の部屋にいたヴァルター達に壁から叱られた事もあった。フィーネペルルとカタリーナはこの自由な旅が面白かった。城での堅苦しい行儀作法もここでは逆効果。素の女性として振る舞えた。いや、幼くなってはしゃいだ。周りはなんとうるさい客かとみているが、本人達は意に介することはなかった。ヴァルターとライアンだけにはこってりと叱られた。が、それもフィーネペルルにはいい思い出になった。なった、というほどアムネシアが近づくたびにそれを感じていた。自分はアムネシアで死ぬのでは。そんな感覚が強まっていた。ヴァルターを悲しませたくなかったが、ゾフィの記憶を戻す事、それが、フィーネペルルの最初で最後の愛の贈り物だった。
途中、何泊か野宿をしたが、フィーネペルルとカタリーナは火の番をヴァルター達に任せることとなり、ぐっすり眠っていた。その寝顔に優しい視線を投げかけていた男性達である。
やがて、風景がすこし変わってきた。東方にあるというアムネシア国に近づけば近づくほど自分の国の文化とは違うものに接するようになった。フィーネペルルは街の中のお土産屋を何軒も見ては楽しんでいた。ある雑貨屋に髪に飾る簪があった。長く細い金具に花が何連かついている。フィーネペルルはそれに魅せられた。手に取ってみては挿してみる。亜麻色の髪には似合わない。そう思ってため息と着いて鏡を見ると簪を元に戻した。すると、すっと、違う簪が挿された。
「ヴァルト!」
「これなら君の髪の毛の色にも合う。記念に贈らせてくれ。愛する人への最初の贈り物だ」
「ヴァルト……」
フィーネペルルは泣きそうになった。最初で最後の贈り物。もうすぐこの姿を見ることもできなくなる。そう思うと涙があふれそうだった。
「フィーネ?」
フィーネペルルは慌てて涙を隠すと後ろを向いて簪を挿して、とねだる。何か違うものを感じていたヴァルターだったが、珍しくねだるフィーネペルルに負けて、簪を挿す。
その自分の姿を鏡に映していろいろな向きで見つめる。もう、鏡の自分に悪態を言うことはなかった。そこにはありのままの自分がいた。
不思議ね。あんなに嫌だったのに、この姿を愛おしいと思えるなんて。
フィーネペルルは心の中で回想する。はじめて出会った森の泉。執務でほったらかしにしながらも護衛を続けてくれていた日々。そして、優しい声で家族の話をしてくれた。自分は泉に映る自分の姿を見ながらずっと聞いていた。そしてヴァルターの姉のことがわかってお互いに離れたくないと言い合って抱き合ったあの日。そして、唇を交わしたあの熱い日。すべてがフィーネペルルの宝物になっていた。
振り向くとフィーネペルルは背伸びをしてヴァルターに軽いキスをした。
「フィーネ!」
とがめる声にフィーネペルルの明るい声がかかる。
「お礼よ! カタリーナ! あっちの食べ歩きのお菓子を見ましょう!」
装飾品を見ていたカタリーナの手を引っ張って店をでる。
「こら! おいていくな。すまない。主人。勘定はこれで」
「毎度ありー」
商人の明るい声を背にヴァルターとライアンは二人のお転婆姫を追いかける。
「フィーネ!」
「カタリーナ!」
男二人が追いついた頃には少女に戻った姫達はお菓子を食べていた。
「路銀は私が持っていたはずだが?」
鬼の形相で追求するヴァルターにフィーネペルルは小銭の入った袋を見せる。
「お母様がお小遣いをくださったの。これで美味しいものをたくさん食べなさいって」
「妃殿下も甘すぎる」
ため息をつくヴァルターにフィーネペルルはいいじゃないの、と言う。
「殿方では買えないものもあるのよ」
「例えば?」
「下着、とか」
男どもは沈黙する。それは確かに買えない。
「わかった。だからといって無駄遣いはナシだ。もう、宿屋に行く時間だ」
えー、と少女に戻った姫は文句を言う。
「もうすぐアムネシア国に入る。行儀作法のお時間だ」
さらにえー、の声が大きくなる。
「成長どころか、退行してるぞ。ヴァルト」
ライアンがため息をつきながら言う。
「二人には楽しい旅だったようだな」
「二人は違うの?」
「秘密、だ。男にも事情があるのだ。さぁ、行くぞ」
ヴァルターがフィーネペルルの手を引く。ライアンもカタリーナの手を引く。二人のお転婆姫は宿屋に放り込まれて堅苦しい行儀作法をマスターしなければならなかった
あとがき
確かに成長するために設定した旅が修学旅行となっている。おかしい。と思いつつも、もうすぐ大変な事になるんです。ここでフィーネは影との統合をはかるので。
まぁ。ネタばらしはしないようにして。これもあと十話ぐらいで終わりますね。別の話を書いてますが、目的地が定まらない。まだまだ長い話数を割いて最初の到達点です。シルバーレイク様の素性も考えないといけないし。
しかし。氷晶の森の舞姫と灼熱の大地の王子、最終話と書かないと読まれないのだろうか。ダッシュボードで見てもどこにあるやら、と。ラストぐらい見てもらえてたら、と思うのですが。ま、フォロワー一桁ですしね。読んでもらえないのは当たり前。増やす気になれないんです。積極的にスキを押したりする方がいいんですが、それでフォロワーになってもらうわけでもなし。それにスキを押すには個性的な方々過ぎて押せない、という状態もあるので。たまに犯罪すれすれの方も来るし。
ああ、眠い。野球中継がほぼ地上波でない。ラジオを聞いて昨日サヨラナラ負けしました。ショック。
買い物もう一度行ってこようかしら。
三作目に流すのは話数が行っている「星彩の運命と情熱」です。これもまた、次の目的地へいかないと。確か決めてあったはず。これも最初の所でかなり話数を割きました。ので、長期化する恐れが。
とりあえず。なんとかお菓子やら買い込んできます。
ここまで読んで下さってありがとうございました。