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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十話 旅立ち

前話

「では、この親書をアムネシアの国王に」
「ありがとうございます。お父様」
 フィーネペルルは丁寧に手紙を受け取った。それから父が何かを言おうとしたその矢先、封じるように言う。
「大丈夫ですわ。信じてください」
 強い口調の娘に父はもう何も言えなかった。ここまで強い姫だったろうか。ふと、父は思う。母、エレナは涙を浮かべている。
「泣かないで。お母様。ほんのちょっとの旅ですわ」
「でも……」
 死なないで頂戴、とは言えなかった。ヴァルターが知れば、即刻取りやめていただろう。それはフィーネペルルの望みではない。娘の望みなら叶えさせたかった。娘は困難を乗り越えてくる。そうとも思っていた。母のカンだった。この大きく成長した娘ならば大丈夫だと信じていた。ただ。怖い。ここまで美しく育った娘が遠い所に行くことは。死を覚悟してまで行くなどとは。
「フィーネ?」
 家族の尋常でない対応ぶりにヴァルターは不審がる。フィーネペルルはそのヴァルターに馬に乗せてもらうよう頼む。
「わかった。カタリーナ様はライアンの馬に」
「ええ」
 カタリーナの顔も強張っていた。だが、それを上手く隠すと馬に乗る。
 
 四人は旅立った。
 
 戦で荒れ果てた土地を馬で通る。荒廃した街のあとが随所に見られた。
「まだ、領地を終えてないのに、こんなに荒れてるなんて」
 フィーネペルルの心は痛かった。何も知らず、あの城と泉の間で過ごしていた自分が嫌だった。いつも自分の顔とにらめっこするだけの身。しかし、ヴァルターと出会えた。この奇跡には感謝したかった。ふいに、フィーネペルルの視界がぼやける。涙を隠すように一人言を言う。
「あら。目にほこりが入ってしまったわ。旅も楽ではないわね」
 ヴァルターが布きれを渡す。
「これで、拭けば良い。綺麗な布だ」
「用意がいいのね」
「旅慣れているからね。こうも、荒廃している土地ばかりだと野宿になる。ライアン! 急ぐぞ!」
 そう言って馬を走らせ始める。景色がどんどん変わっていく。だが、目で追う程具体的には見えない。それほど早く走らせていた。
 どれぐらい走っていただろうか。いつの間にかフィーネペルルはヴァルターの胸の中で居眠りをしていた。ふっと目を覚ますとカタリーナがライアンに馬から下ろしてもらうところだった。
「この辺に唯一あるオアシスだ。水分を補給しよう。フィーネ」
 ヴァルターが両手を広げる。フィーネペルルはその腕の中に勢いよく飛び込んだ。がっしりとした胸に抱きしめられる。このまま、と思うが、軽率な真似はできない。なにしろミスティック・ローズを手に入れてないのだから。
「ヴァルト。オアシスでは何をするの?」
「馬を駆けさせてきたから水を飲ませて休ませる。そうすれば乗り潰すことはない。フィーネもここのオアシスの水を飲むと良い。相当美味しい湧水だ」
 フィーネペルルはしゃがみ込んで水辺に近づく。そして手を入れる。
「冷たい。綺麗な水ね。この辺りの生き物の命の水ね」
「そう。我々にとっても命の水だ。オアシスではみな平等だ。どんな国の勢力も干渉してはならないという昔からの慣習がある。レガシア帝国はそれをも無視しているが、この辺までは勢力外だ」
「そう」
 ため息をつくようにフィーネペルルは言う。レガシアと聞くだけであの恐ろしい追体験を思い出す。あのような思いをもうマリアにはさせられない。ヴァルトと幸せに暮らして欲しい。物思いにふけるフィーネペルルの頬に冷たい布が当てられた。きゃ、とフィーネペルルは言う。
「これでほてった顔を冷やすと良い。日焼けは女性に敵だからね」
「ご親切にどうもありがとう。日焼けは覚悟してたわよ。でも、ヴァルトの気持ちはありがたく受け取るわ」
 そう言って布で首元などを冷やし始めた。それを見ていたヴァルターは視線をそらしてライアンと打ち合わせを始めたのだった。側にヴァルターがいない事がこれほど寂しいとは思わなかった。けれど、一度覚悟したこと。フィーネペルルはヴァルターに離れたくないと言った自分の言葉を封印するしかなかった。


あとがき
しっとりと大人のいちゃいちゃでございます。これから歯の浮く台詞がどんどんでるかも。今日は水曜日の熱中症の弊害かどうも調子がよくありません。三作目の更新はないかもしれません。一度横になってみるのでまた気力がでてきたら作業します。漢検も放り出し。
なぜか土曜日の休みでもないのに復習日と決めていて、ん? です。

これを見越していたのでしょうかね。眠くてたまらないので寝てみます。お昼寝もしたのですが。血糖値が高いでしょうね。その弊害もあるかもしれません。高血糖になると眠たくなることが多いので。あと一時間は起きておかないと。明日から「氷晶の森の舞姫と灼熱の大地の王子」は第二部「風響の守護者と見習い賢者の妹」です。よろしくお願いします。

ここまで読んで下さってありがとうございました。

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