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答えの出ない問いを抱えたまま、それでも生きるのだ。

ことの始まり。

話は2年弱前、レティクル東京座の『皇宮陰陽師アノハ』の稽古中に、共演者から「姫子さん主演で舞台をやりたいと言っている演出家の知人がいる」と聞かされたことから始まりました。

当時わたしはフリーの役者としてようやく、1ステージにつきいくら、でお仕事をいただけるようになったばかりでしたので、主演のお話がいただけることは大変光栄なことでしたし、それにその時は、こんな無名の役者にいきなり主演のオファーをするのだからせいぜい50キャパ、広くて100キャパくらいの会場だろう、と思っていました。

それが昨年、改めて正式にオファーをいただいた際に聞かされたのは、会場は新宿村LIVE(230キャパ)ということでした。

2018年の春に初めて立った新宿村LIVEで、2019年の春に、主演。

フリーランスで、後ろ盾も経歴も芸歴も何もない、ぽんこつ女優が。

新宿村LIVEで、主演。

胸の奥が、ぎゅん、と熱くなったことを、よく覚えています。

しかも聞けば4年間あたため続けた大切な作品だそうで、そんな大切な作品の主演に、わたしの芝居をまともに見たことのない段階で直感的にわたしにオファーするなんて、もしかしてこの主宰はバカなのかしら、と思いましたけど、わたしも大概バカなので、バカ同士、きっと面白いものが作れる、と感じました。

くちさけについて。

(今から書くことは、芝居をきっちり組み立てるきちんとした役者や、芝居をきっちり組み立てるきちんとした役者が好きな方からは邪道だと敬遠される可能性がありますので、それ以外の芝居のやり方が受け入れられない方はこの項目を見ず、次の項目までスクロールしてください。)

さて、野生の女優であるわたしにとって芝居は、まず感覚ありきで、役と対話して、後から理屈を付けて、自分の意識は宙に浮かせて、最後は自分の体をどこまで役に明け渡すことができるか、という作業なのですが、くちさけは、演じ終わって自分の元に自分の体が帰って来た時に感じる疲弊感が、ものすごかったです。

というのも彼女、日頃たくさん我慢をして生きている女性なのです。

先日、「感情を出すのがくちさけ、感情を抑えているのが椿」という旨の感想をTwitterで見かけたのですが、体を貸していた自分としては全く異なる感想を抱いていましたので、不思議に感じました。

だって、彼女が自分のために涙を流せるのは、貞春が学校を出て行くシーンで、屋上で、ひとりぼっちで、街を眺めている時だけなのです。

楽しい時はたくさん笑って、嬉しい時はたくさんはしゃいで、仲間のために全力で怒って、と、いつもハイテンションだから気付かれにくいのかもしれませんけど、彼女は常に、気が狂いそうなほどの絶望感を抑え込んで生きていました。

そしてそれは、普段のわたしに通ずるものがありました。

「隠した傷でも好いてくれるような人、探しちゃうや。」

あの言葉を発した時の途方もない悲しみから、くちさけも、わたしも、抜け出せることは一生ないように感じます。

他人からどんなにたくさん愛されても、自分が自分を赦せない限り、我々は傷を抱えたまま、傷だらけになり続けるしかないのです。

あ。これは、椿ちゃんもかな。

共演者について。

▲アンサンブル&タクちゃん&記者 役 タカタ ナツキさん▲
みんなより一足遅れての稽古合流でしたけど、すぐに馴染んでムードメーカーになった最年少のなっちゃん。おバカキャラでみんなを和ませてくれますけど、そういうのは本当のバカにはできないこと、みんな知っていますよ。

▲アンサンブル&振付師&記者 役 長谷川めぐのさん▲
小柄で可愛らしくて関西弁で酒飲みで面白くて、老若男女からモテそうなオーラが出ているめーちゃん。癖の少ない綺麗なダンスをする実力者でした。こんな女の子に生まれていたらわたしはアイドルになりたかったですね。

▲アンサンブル&男&てけてけの下半身&記者 役 飯田義樹さん▲
本作において最も重要なシーンのひとつは間違いなくOP前のシーンですけど、絡む相手がよっしーくんだから、完全に信頼して挑めたように思います。客席のひんやりした空気を無視する宇宙人らしさ、最高に好きです。

▲アンサンブル&リポーター&記者 役 村田綾野さん▲
アンサンブルズを見守る綺麗なお姉さんあやのちゃん。常に一歩後ろから全体や全員を見ていてくれていて、その目が自分に向けられていることを感じると、とても安心できました。早口長台詞、すごかったです。

▲AKI 役 チアキさん▲
チアキの歌には、わたしが考える“歌に必要なもの”のすべてがあります。「どんな歌詞を書いても本当に歌が上手い人が歌うと良い歌になる」と思っているのですけど、チアキはまさにそういう魔法を使える歌手です。『ティアー・ハート・アタック!』と『デラシネ』を聴く度に、作詞家として田島さんに嫉妬していました(※この二曲の歌詞は良い歌詞です)。ひとりでコソ練をする努力家なところ、本当に大好きです。歌詞を書かせてください。

▲四谷 役 卯木祐矢さん▲
以前観た舞台でのゆーやさんはぶりっこだったので、ぶりっこ男子が苦手なわたしは仲良くなれるか心配していましたけど、杞憂でした。踊ると美しくて、常に周囲に気をまわしていて、本当にかっこよかったです。推せる。

▲三井 役 酒井俊輔さん▲
真性ツッコミ男子のしゅんべさん。初期は怒っている人のイメージでしたけど、そういう表情なだけで実は一度も怒っていなかったと後になって気付きました。有栖騎士団ごっこ楽しかったです。あれ?お主、もしやアホだな?

▲二見 役 朝田将史さん▲
人の名前と顔が一致するのに時間がかかるわたしが、なぜか一発で覚えられたアサダスさん。舞台の裏方のお仕事もされているからかいつも俯瞰して全体を見ていらっしゃったので、意見を聞きやすかったです。二見は怖い。

▲一ノ瀬 役 恭平さん▲
肩の力が入っていないように見える芝居や佇まいが好きです。そしてわたしは勝手に虚弱体質仲間だと親近感を抱いていました。でも多分へーさんは単純に栄養不足です。ラーメンを食べましょう。ラーメンは完全栄養食です。

▲橘 役 鈴木千菜実さん▲
作中の天使は橘で、座組の天使もちなっちゃんでした。大切な人やものを守るために怒れるちなっちゃんを見て、怒らないから優しいわけではないと改めて思いました。可愛くて、優しくて、人に好かれる橘そのもの。大好き。

▲日出 役 片岡文さん▲
ペースメーカーツッコミ女優ふみちゃんさん。稽古中は座組を盛り上げてくれて、本番期間中は座組を支えてくれました。開演が長時間押して不安と怒りと混乱で泣き出しそうになっていたら抱きしめてくれて、ありがとう。

▲星野 役 森下竣平さん▲
美形で高身長でつかみ所がなくて、隅っこで筋トレしたりイラストを描いたりしていることが多いけど、どうしても目立ってしまうタイプの俳優さん。星野のあの存在感は、しゅんしゅんさんでなきゃ出せなかったと思います。

▲海堂&ガール&教頭 役 やまひろさん▲
嘘のない人ですけど、本音も見えにくい人です。でも、思いやりの人であることだけは確かで、だからやまひろさんは人から慕われやすいのだと思います。あとフットワークが非常に軽いです。もう少し休んでください。心配。

▲ジャマネ 役 海老原直さん▲
えびちゃんさんは器用なマスコットキャラクターでした。踊れる、動ける、色々なテクニックも持っている、なにより可愛らしい。ビンタしやすい位置に顔を持って来てくださってありがとう。おかげで良い音が出せました。

▲社長 役 星間美佳さん▲
わたしが世界一可愛いと思っている人のひとりです。容姿、中身、すべて大好きです。憧れのタレントでもありましたので、共演できて本当に光栄でした。でもビンタをしなくてはいけなかったのは、本当に心苦しかったです。

▲中谷 役 大野トマレさん▲
年齢不詳女優トマレさんは、全員が自分の同級生だと勘違いする謎現象を引き起こす魔女です。すべての男が一度は恋する魔力を感じます。なぜならわたしですら恋しそうになりますから。バラエティ力の高さも、また魅力的。

▲曲戸 役 高木聡一朗さん▲
そーさんに関しては、もう今更何を書くまでもない気がします(笑)。ヤバい人です。わたしは仕事のことについてあまり他人に相談しない人間なのですけど、そーさんにだけはなぜか相談してしまいます。普段はみんなを笑わせても、真剣に相談すると真剣に返してくれるので、本当にコミュ力おばけです。2年弱前に共演した際も思いましたけど、やはり尊敬できる、頼れる俳優です。でも、本番中に唐突に世界観を壊さないでください(笑)。

▲ベートーベン 役 齋藤雅樹さん▲
あざとい。まささんご本人はあざとくない、と言いたい所ですけど、やっぱり随所にあざとさが垣間見える気もします(褒め言葉)。舞台上でベートーベンと絡むとくちさけの心がほにゃほにゃしました。うーん。あざとい。

▲赤マント 役 須佐光昭さん▲
役柄的にも、ご本人の人柄的にも、優しいお兄ちゃんのような存在でした。わたしのようなぽんこつ女優のこともリスペクトしてくださっていて、安心してくちさけを貫く土台を作ってくださったと感じます。ありがとう。

▲てけてけ 役 児玉卓也さん▲
児玉くんは芝居で絡みやすくて、それは初めてお話した時に感じた絡みやすさと同じでした。あからさまにそうは見せませんけど、気遣いの人です。楽屋ではいつもうるs……とても賑やかでした!また一緒にお仕事したいです。

▲花子さん 役 北村まりこさん▲
可愛さと格好良さとコミカルさを併せ持っていて案の定人気キャラになった花子さん。でもそれは、まりっぺさんが作り上げたから、まりっぺさんが演じたからだと思います。素はちょっとクールに見えるところも、好きです。

▲八尺(やせき) 役 真島なおみさん▲
人気女優という役の説得力がある容姿と性格で、座組のアイドルだったなおみん。完全無欠の女の子でした。ひとつ文句を挙げるとするならば、なぜ演出家は八尺に脚を出す衣装を着させなかったのか、ということくらいです。

▲椿 役 長島光那さん▲
別の現場で何度もニアミスし続けての邂逅でした。クールに見えて、可愛くて、世話焼きで、よく遊び、よく笑う、真面目すぎるくらい真面目な女の子。かなり丁寧に椿を作っている様子を見て、絶対的な信頼の元、自由にくちさけを演じることができました。みなちゃんが椿で本当に良かったです。彼女は確かに“声優”ですけど、それ以上に“役者”で。今時の声優には珍しい硬派な役者ですので、声優の長島光那しか知らない方々は、もっと彼女の芝居を観ていただきたいです。またお仕事でご一緒できるよう、わたしも精進します。あとこれは余談ですけど、わたしは長島光那ショート過激派です。

▲貞春 役 下塚恭平さん▲
今回の相手役のきょーさん。こういうことは格好悪いのであまり言いたくないのですけど、実はわたし男の人がすごく苦手で、緊張せずコミュニケーションが取れるようになるまでに時間がかかってしまう人間です。でも、きょーさんはいつも深い懐で貞春としてそこに居てくださったので、わたしも「なるようになる」という気持ちでくちさけとして隣に居られました。何か投げれば何か返してくれる、と思えたのです。この信頼感は、みなちゃんに抱いていたものと同じものでした。真面目すぎるくらい真面目なふたりが隣に居てくれて、わたしのぽんこつくちさけは幸せ者でしたね。ありがとう。

そして、くちさけ役のわたしを含めて、計25名の出演者でした。

お世辞抜きに素晴らしい座組でした。

わたしの短い役者人生において、随一と言っても過言ではありません。

全員が全員、主演級の役者で、魅力的な容姿の人や器用な人や裏方の仕事が出来る人も多く、それでいて驕らず、仲も良く、日に日にみんなの素晴らしさを再認識すればする程、「なぜわたしはここに……」という気持ちになり、自分が座長であることをよく忘れていました。

そして、そんなわたしを座長として居させてくれたのも、間違いなく座組のみんなでした。

本当に出会えて良かったと思える人たちが集まっていて、まるかど企画の田島さんの能力の中で最も優れているのが、キャスティング能力だと思うほどです。

願わくば全員、またどこかでご一緒したいです。

もちろん、板の上で。

ファンの皆様へ。

先日、ファンに言われて初めて気付いたのですけど、今年は有栖川姫子と名乗って5周年の年です。

有栖川姫子と名乗って最初の2年くらいは1年に1度しか舞台に立ちませんでしたので、精力的に活動を始めてからはまだ3年ですけど、その間、たくさんの——他の有名な方々と比較したら多くはありませんけど、わたしにとってはたくさんの——方が、わたしを応援してくださいました。

今回の新宿村LIVEでの主演は、わたしひとりで手に入れたチャンスではなく、有栖川姫子扱いで舞台に足を運んでくださった、あなたと、あなた達と手に入れたチャンスでした。

確実に、あなた達の中の誰か一人が欠けていても、わたしはここに来られなかったことでしょう。

カーテンコールの一番最後に有栖川姫子が出て来たのを見て泣いた、ということを、少なくない人数に言われて、わたしも物陰でこっそり泣きました。

事務作業が苦手で、メールの返信が遅くて、忘れっぽくて、お口が過ぎることが多くて、運動神経も鈍くて、ぽんこつで、欠点を挙げたらキリがないほどなのに、それでも、とわたしを愛してくれてありがとう。

昔、わたしがまだ、ただの病弱な少女だった頃、お医者さんから「愛が足りていない」と言われたことがありました。

今思えばそれは愛されて生きて来なかったという話ではなく、ただ単に欲張りという話なのですけど、わたしの餓えていた心を満たしてくださったのは、間違いなくファンのあなたたちです。

おかげでわたしは年々少しずつ、健康になってきています。

これ以上わたしの人生がわたしの望まない方へ転ばないよう、無意識かもしれませんけど、支えてくれてありがとう。

劇場に並んだたくさんのスタンド花を、カーテンコールの時に見た景色を、心の中の死ぬ前に見る走馬灯フォルダに、入れておきます。

さあ、次はどんな景色を見に行きましょうか。

あなたが付いて来てくださるのなら、わたしはその手を握り続けます。

大好きだよ。

終わりに。

改めまして、まるかど企画第5回公演『おクチが裂けても言えないの』、誠にありがとうございました。

共演者の皆さん、裏方の皆さん、まるかど企画さん、そしてなにより足を運んでくださったお客様、本当に本当に本当に、ありがとうございました!

そして、ここまで触れずにいましたけど、ご来場のお客様には大変ご迷惑をおかけし、非常に申し訳ございませんでした。

「演者に非はないので謝らないで」と言われましても、フリーでやっている限りわたしの窓口はわたしですし、運営からの言葉だけでは届かない想いもあると思いますので、謝らせてください。

ですので、グッズのサイズが間違っている等、何か対応して欲しいことがございましたら、TwitterのDMにてご連絡いただけますと幸いです。

見落とすことも多いですので、返信がなければ再送してください。

近いうちにまるかど企画さんと話し合いをする機会を設けていただきましたので、代わりに伝えて欲しいご意見等もDMして来てください。

まるかど企画さんは今回たまたまミスが多かったというだけで、中の人たちが悪い人たちではないことは、もう、誰に言われずともわかっていますし、まるで仕事をしていなかったわけではなかったこともわかっていますし、もちろん、いろいろ感謝だってしています。

ただ、わたしが一番守りたいのは、わたしが一番守るべきなのは、これまでを支えてくださって、これからを支えてくださる、お客様なのです。

わたしは娯楽で芝居をしているわけではありませんので、切実です。

それだけ、ご理解いただきたく存じます。

誰のことも攻撃なんかしたくありません。

ただ、わたしはお客様に対して、筋を通したいだけです。

今後も、有栖川姫子は活動を続けてゆきます。

一度も事務所に所属したことのないフリーランスの女優が、新宿村LIVE級の大きな会場で主演を張れることは、もしかしたら、もう二度とないかもしれませんけど、新宿村LIVEより大きな会場で主演を張りたいという欲も湧いてしまいました。

とりあえずは、目の前のこととひとつずつ向き合い続けます。

そうしているうちに、いつかまた、チャンスに巡り会えると信じて。

それまで、わたしに付いて来てくださると、とても嬉しいです。

明日もわたしは、傷を隠して生きる。

答えの出ない問いを抱えたまま、それでも生きるのだ。

        くちさけ役 有栖川姫子

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