【怖い話】音楽堂の怪人(ショートショート)
彼女は、夜毎にイェニチェリ音楽堂の幽暗な舞台に姿を現す。美しくも不気味な存在だった。
彼女はかつて、エレーナと呼ばれた音楽堂のスターの一人であり、その美声と圧倒的な舞台上の存在感で観客を魅了していた。しかし、彼女の栄光は短命であった。ある日、彼女は舞台上で不慮の事故に遭い、その美しい顔に深い傷を負った。その後、彼女は音楽堂の地下深くに姿を消した。
しかし、夜になると、エレーナの歌声が再び音楽堂を満たすと噂されるようになった。その声は美しくも哀しげであり、それを聴いた者たちは胸を打たれるほどの感動に包まれた。
その美声の背後には恐ろしい秘密があった。エレーナは、あの事故以来、生きることを拒み、死の世界と契りを交わしたのだ。彼女は生者の魂を奪い、その生命の輝きを自身のものにしていた。
ある夜、若い女性歌手がエレーナの声を聴き、舞台裏へと足を踏み入れた。彼女はエレーナの美しい姿と声に魅了されながらも、その目には深い漆黒が宿ることに気付く。歌声が耳に届くたびに、魂を奪われる恐怖に取り憑かれ、すべてを捧げることになった。
音楽堂の舞台裏では、エレーナの歌声が、嗚咽に似た悲しみを帯びて響き渡る。永遠に。
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