見出し画像

【怖い話】境界線(ショートショート)

 ある小さな町に、古い墓地があった。その墓地は昔から町の住民たちの最後の安息の場であり、多くの人々がここに眠っていた。

ある夜、町は異様な現象に見舞われた。墓地の周りに不気味な霧が立ち込めた。今度は地中から奇妙な音が聞こえ始めました。最初はかすかな声だったが、次第に合唱のように墓地を包み込んだ。

何人かの住民は恐ろしいことに気付いた。墓地から死者の群れが押し寄せているのだ。死者の群れは、既に墓地を出て、町の中心部に向かって歩き始めていた。住民たちは、その現象に対処しようとしたが、町の長老たちでも、解決策を見つけることができなかった。

とうとう、死者の群れが町に到着した。その姿は幽霊のように薄く、かすかな光を放っていた。死者に触れた者は半分が命を失い、半分が死ななかった。

住民たちは、死者の群れと対峙し、町の長老が死者たちに語りかけた。

「我々はあなたたちの死を悼み、尊重します。しかし、我々の世界では生と死の間には、境界があります。どうか、元の世界に戻ってください」

言葉が通じたのか、死者の群れは静かになり、霧の中に消えていった。霧の中から一匹の猫が飛び出してきて何か言いたげに鳴いた。住民たちはほっと息をつき、町は静かな夜に包まれた。

 それ以来、墓地から死者の群れが現れることはなかった。住民たちは、生と死の間の境界が、まるで確率論のように脆弱であることを理解したのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?