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【怖い話】再会(ショートショート)

 山田美咲は仕事の忙しさに追われ、毎日終電で帰宅する生活が続いていた。午後11時過ぎ、疲れた体を引きずりながら駅に向かい、終電に乗り込んだ。

車内がさほど混んでいないのが、せめてもの救いだ。美咲はさっそく座席に座り、スマートフォンでニュースを見はじめた。人気記事のランキングが政治家の不祥事で埋め尽くされているのを見て、まじめに働いているのが馬鹿らしく思え、疲れが増した気がした。

ふと視線を上げると、向かいの座席に座る若い女性が目に入った。自分と同じ年頃だろうか。彼女もまたスマートフォンを見つめていた。

数駅過ぎたところで、車内の静けさを破るように大きな声が車内に響いた。

「美咲さん!美咲さんですよね!」

美咲は驚いて顔を上げた。声の主は、向かいに座っていた女性だった。彼女は興奮した様子でこちらを見つめている。周囲の視線が一斉に自分に向けられていることに気づき、困惑しながらも「え?はい、そうですけど……」と美咲は答えた。

女性はにっこり笑い、席を立って美咲の隣に座った。

「私、佐藤です!中学校の時のクラスメイトですよ!」と彼女は嬉しそうに言った。

田中は驚きつつも、彼女の顔をじっくり見つめた。ようやく、中学校の同級生の佐藤由美であることに気づいた。

「ええ!由美さん?久しぶりだね!」

美咲はかすかな記憶をたぐり寄せながら答えた。彼女はあまり目立った生徒ではなかったし、二人の間に印象的な思い出も無かった気がする。

話題探しに困っていると、由美の方から話題を振ってきた。授業そっちのけで、若い頃学生運動に参加したという武勇伝を延々と話続ける社会科の名物先生の話から始まり、それからしばらく中学時代の思い出話に盛り上がった。その間もずっと笑い声が絶えなかった。

駅に着く頃には、美咲の疲れはすっかり癒されていた。日々の忙しさに追われて、友人との会話を楽しむ時間すら取れていなかったことにに気づかされた。

佐藤由美とSNSの連絡先を交換し、再会を約束して別れた。


 家に着くと、自然と笑みが浮かんだ。旧友との再会は、単調な日常にも思いがけない素晴らしい出会いがあることを教えてくれた。明日からの仕事も少しだけ前向きに頑張ろう。

――スマホがぶるっと震え、SNSにメッセージが入った。
やっぱり彼女からだ。

『覚えてる? あなたが昔、私にしたこと』

自分の顔から笑顔が引いていくのがわかった。
もう少しで何か思い出しそうな気がして……。


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