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【怖い話】昆虫の森(ショートショート)

 夜になると南の森から不気味な羽音が聞こえ、畑や家の周りにたくさんの昆虫が集まるようになった。村人たちは、7年周期でやってくるこの現象は、不吉の予兆だと信じており、夜の外出すら避けるようになっていた。

村の若者マルコは、昆虫の群れが出現する時間帯に、森に入ることを決意した。原因を調査し、村人の不安を解消したかったからだ。

 ある夜、彼が森に入っていくと、暗闇の中に何かが蠢いていているような感覚がした。突然、彼の周りに黒い昆虫の大群が姿を現した。蛾、甲虫、蝶……さまざまな種類の昆虫たちが、彼を取り囲むように集まってきた。

マルコは、まとわりついた昆虫を払いのけ、逃げようとしたが、追い詰められ逃れることはできなかった。とうとう彼の体に昆虫たちが群がり始め、黒い塊が、彼を飲み込んでいった。

 その日以来、村人たちは彼の姿を見ることはなかった。不思議なことに、恐ろしい昆虫の群れも消え、村は再び平穏を取り戻した。村人達はマルコの姿がないことを心配し、森に棲む何者かによって連れ去られたと信じるようになった。

――7年後。
行方不明になっていたはずのマルコが村に現れた。表情は虚ろで、殴られたかのように全身は膨れ上がっていた。

村人の一人がマルコに触れた瞬間。
彼の皮膚は弾け飛び、熟したザクロのようにめくれ上がった。そこから昆虫の群れが黒い塊となって飛び出してきた。その昆虫の群れは、渦を巻きながら、吸い込まれるように森の中に消えていった。

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