又吉直樹『東京百景』(角川文庫 2020年)
又吉直樹の著作はデビュー作の『花火』以来である。
嫌いだからなのかと言われると多分そうではない。むしろ好きなはずである。
なぜこのような奥歯に物が挟まったような言い方になってしまうのか。なんとなく抵抗したい気持ちがあるからだ。
『東京百景』というタイトルは冒頭でも触れられている通り、太宰の「東京八景」がベースになっている。そればかりではなく、彼の文章にはどことなく太宰の陰が感じられる。もちろんいくたび引用されているから、という理由もあろうが。
私もいわゆるブンガク青年の例に漏