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予備校文化とマルクスと『100分de名著』と

駿台予備校、河合塾、代々木ゼミナールの三大予備校が全国展開し、SKY戦争と呼ばれる勢力争いをしていた頃、その内部では「予備校文化」と呼ばれるものが生まれていました。

共通一次テストの問題を当てたことで有名になった牧野剛さんをはじめ、人気講師たちはマスコミにも取り上げられ、彼らの講義が行われる大教室は、超満員で祭りのように盛り上がり。また、著名な文化人を招いての講演や映画上映など、受験産業の枠組みを超えた活動が行われていました。

河合塾は全共闘世代の講師たちが主でしたが、新右翼の鈴木邦男さんを講師に起用するなど、右から左まで多様な思想を許容する雰囲気があり。自分も九州独立を主張する茅嶋洋一さんに小論文を学びつつ、マルクス経済学の自主ゼミにも参加。たしか、フィリピンバナナと米国帝国主義がテーマ(笑)

そんなことを久しぶりに思い出したのが、NHK『100分de名著』。古今東西の「名著」の魅力を、25分番組×4回の1ヶ月100分で、楽しく深く解説する教養番組で、1月はマルクスの「資本論」を取り上げました。

司会を務める伊集院光さんを、バラエティー番組で雑学を披露するデブタレント、ぐらいの認識の人もいるでしょうが、実は“地頭”がいい。不登校で中卒ですが、逆にそうした経歴だからこそ、平易な言葉で、しかも切れ味鋭く解説者に切り込んでくるので、難解な思想も驚くほどわかりやすくなり。

講師は、新資料でマルクスを解釈し直し、気候変動問題の解決策を示した『人新世の「 資本論」』の斎藤幸平さん。マルクス研究界最高峰の賞、ドイッチャー記念賞を若干31歳で受賞した俊才で、これまた理解しやすい解説。

「思想(イデオロギー)」は妄信すべき「真理」なのではなく、この世界に対する一つの「解釈」、新たな「視点」、ただの「道具=武器」であり、時代に応じて解釈し直すことで、新たな時代の「助け」ともなるのでしょう。ディストピアが濃厚な人類の未来に、かすかに見えた光明ともいえる講義でした。

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