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INVISIBLE WORLD〜感情と向き合う覚悟

エモは岩の上に座って、眉間に皺を寄せながら言った。

この海の底へ行って助け出すことは可能だと思う。君たちが海に沈んで上がってくることができたからね。
でもリスクはある。なぜなら君たちがまた戻って来られるとは限らない、それに友達に戻ろうという意思がなければ一緒に戻ることは難しいだろう。

その友達に戻る意思があれば、どうにかして戻ってくる可能性がある。それにかけるのも一つの手だと思うよ。

二人は考え込んだ。

ピスフールは俯いて言った。

確かにリスクが大きいわ。
海に落ちた時に思ったの、もうここから戻ることはできないと。
感情の海に落ちれば、心が麻痺するの。

今はそうしたいという強い気持ちがあっても、海に落ちればどんな感情になるか分からない。

それに…。

もしかしら、アブソリュートとも一生会えなくなるかもしれない。

一人で海を彷徨うことになったら…。
家族にも会えずに、大切な人とも一生会えなくなるかもしれない。

それは死ぬようなもの。お別れも言えずに会えなくなるなんて…。

ピスフールの手は震えていた。

アブソリュートはそれを聞いてピスフールをじっと見た。

その恐怖は理解できた。自分の大切なものを失うかもしれない恐怖は先程味ったばかりだった。

その一方で確信していることもあった。

アブソリュートは拳を握った後、深く息を吸って吐き、数秒黙った後ピスフールに話し出した。

ピスフール、聞いてくれ。
俺は以前軍人として働いていた。どんなに苦しくても人を助けることを生きがいとし喜びだった。

でも病気になり、軍人として仕事を続けることが難しくなった。
俺はこの手で人を助けたかったから、どうしても体を酷使する仕事を志願した。男は絶対に強くならなければならない。この手で守ることこそに意味があると思った。それ以外は俺のする仕事では絶対にないと思っていた。



でも海で溺れた時に思ったんだ。

自分の大切な人を、一人でも守ることができればそれは俺の価値なんじゃないかと。ここでコアを助けることを諦めてしまえば、俺は絶対に自分のことを責めて後悔する。
もしコアが自分1人の力で戻ったとしても、自分が行動せず諦めたことで俺はコアとうまく向き合えない。コアを見るたびに情けない俺がチラつくんだ。


俺は不器用だから、上手く生きられない。
危険でも今助けに行くことが、俺にとっても必要なことなんだ。だから行くよ。

そして、下を向いて細い声で話した。

でもそれは俺の考えで、お前を巻き込むわけには行かない。


俺にとってはお前を失うことも怖いことだ…。

アブソリュートはピスフールから目を逸らしたままだったが、拳は震えていて何かに怯えているように見えた。

ピスフールはそれを見て、アブソリュートの手を握った。


私は大丈夫、ごめんなさい。
私もコアを助けたい。コアの笑顔がみたい。あの笑顔を守れること、コアが幸せでいることが私の幸せだわ。失うことに目を向けすぎた。でも挑戦せずに失うことの方が怖いわ。

行きましょう。

アブソリュートはピスフールの目をじっと見つめた。


エモは白い歯を見せ笑った。

ははっ、見ているこっちが恥ずかしいよ。

それを聞いて二人は手を離して顔が真っ赤になった。

エモは笑い、話を続けた。

助け出すこともできるかもしれない。
しかし、それには海で溺れないように訓練することが必要だよ。

まずは練習をしてみよう。


感情や思考は、実際には何もしてこない。しかし怒りが湧いた時、人を殴ったり傷つけてしまえばそれは実際の被害となる。

強い感情が起こっても、何もしなければ現実に被害は出ない。

この感情の海では、感情や思考がどんな状態でもそれを受け入れ居場所を作れば大丈夫だ。しかし実際に壊したり殴ったり、逃げたり現実逃避したりすれば、波は襲ってくる。

人が何かから自分を守るために戦ったり逃げたりすることを、闘争逃走反応という。人間の本能的な反応だ。

ライオンがいれば戦うか逃げるかを選択する。狩猟民族のときは役に立ったけど、現代では役に立たないことが多い。
だから現代では、その感情が役に立つか立たないかで判断するんだ。


感情の海は、そんな現代人の愚かさを教えてくれる。
ここで訓練することで、現代で生きるための感情コントロール力を培うんだ。


過ちを犯す人を少なくすることが僕の役割さ!もう大切な人が現実世界から消えるのは見たくない・・・。


エモの顔には一瞬何かが光った。エモをそれを腕でそれをぬぐい、二人に笑顔を向け言った。

さあ、これは訓練だよ、二人とも。
この訓練は自分や他人を守るためのものだ。
さあ、やってみるかい?


アブソリュートはピスフールを横目でみた。

ピスフールは、拳を握って言った。

私はコアを助けたい!コアを失いたくないもの。やるわ。

エモはニコッっと白い歯を見せて笑った。

じゃあ、行くよ。




ではピスフール、あなたは役立たずですか?




波は飛沫をあげはじめた。


見てくださり、ありがとうございます♡これからもあなたが楽しく、健康的な人生を送れるよう、お手伝いができたらと思います! これからも面白い物語の提供や企画をする予定です!サポート貰えたら嬉しいです^_^