140字小説 No.401‐450
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【No.401 Unauthorized】
妻が事故にあって記憶を失ってしまった。思い出のバックアップをするために、IDを打ち込んでダウンロードを始めると認証エラーを起こす。何度も、何度も。誰かのIDを奪えば、「誰か」として意識は取り戻す。でも、奪われた「誰か」は。逡巡する。IDをもう一度入力する。入力した。妻が――
【No.402 Payment Required】
記憶バックアップのIDが盗まれる事件が多発してから、思い出の移植には高額な費用と複雑な手続きがかかることになった。お金を支払うことができない人達は、記憶を、約束を、人格を、願いを引き継げないまま、他の「誰か」になることも叶わず、存在を失っていく。犯人の行方は未だ不明だった
【No.403 Forbidden】
記憶図書館の管理を行う。今、人々の記憶はバックアップすることができて、思い出が欠損したときにはダウンロードして取り戻せる。私の仕事は保存された記憶の中に未解決事件の手がかり、歴史的情報が埋もれていないか調べることだ。『アルマ』と命名された記憶を調べると、閲覧禁止になった
【No.404 not found】
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【No.405 迷言葉】
『迷子の言葉を探しています』と貼り紙が貼ってあった。なんでも「作品の感想を伝えたのに『誰からも感想をもらえない』と言われた」とか「創作物が好きだと話したのに『誰にも読んでもらえない』と呟いていた」そうだ。応援の言葉を届けたはずなのに、どこかで迷子になってしまったという
【No.406 死期視】
交通事故にあってから僕は、人の死期が見えるようになった。人々の頭の上には年月日と時刻が表示されて、そのときが来ると最期を迎える。事故、寿命、事件。理由はどうであれ、同時間になると必ず亡くなるのだ。ふと、自分の寿命が気になって鏡を覗くと、そこに自分の姿は映っていなかった
【No.407 飲むスポーツ】
新商品のスポーツドリンクが発売された。試しにマラソン味を購入して飲んでみると、足に疲労が溜まって途端に立てなくなった。ボルダリング味を飲むと腕に激痛が走る。どうやら、そのスポーツを行ったときと同じ効果・効能が働くようだ。説明文には「新感覚。飲むスポーツ!」と書かれていた
【No.408 ワンダーガーデン】
昔、兄から教えてもらった遊びがある。お互いが好きそうな本を選んで、その中から相手が好きそうな一文を探して教えて合う。家にいるのが苦手なわたし達が唯一、心を落ち着かせられる場所が図書館だった。あの日、兄が伝えてくれた言葉の意味を、大人になった今でも、わたしは分からずにいた
【No.409 芋焼き石】
「いもやーきいし。おいし」とおじさんの声が聞こえて、注文したら石を渡された。「俺が売ってるのは特別な芋焼き石だよ。これで焼くとすごくうめーんだ」家で芋を焼いてみると、なるほど。確かにおいしいかもしれない。後日、近所の河原でおじさんが石を拾っているのを見かける。騙された
【No.410 前借り時間】
7日後の予定が待ちきれなくて時間の前借りをする。あっという間にパーティーの日になった。思いっきり楽しんだ次の日、前借りした分を返すと思うと憂鬱になった。1日の就労時間は体感56時間に、カップラーメンが完成するのに体感21分かかる。そうか。また7日間を前借りすればいいんだ
【No.411 不燃ゴミの恋】
就職のために積もりに積もった恋を処分しようと袋を用意する。まだまだ燃え上がるから可燃ゴミか、はたまた大きく膨れ上がってるから粗大ゴミか。ところが、何日経っても捨てられた恋は引き取ってもらえなかった。あぁ、そっか。私の恋なんて簡単に冷めちゃうし、とても小さな感情だったんだ
【No.412 鼻セレブ】
世界中からウサギ、ブタ、アザラシ、コウテイペンギンの数が減少した。誰かに狩猟されたのか、自然と数が減ったのか。全てが未だに不明だった。ある日、黒ずくめの男がアザラシをさらう瞬間を目撃してしまう。男がアザラシをティッシュ箱に詰める。箱には小さく「鼻セレブ」と書かれてあった
【No.413 つけまつ目】
化粧品コーナーで「つけまつ目」なるものが売られていた。形は普通のつけまつげとなんら同じで、お試し品をつけようとすると床に落としてしまう。やがて、まつ目を落とした床がパチ、パチと動いたと思ったら、私のことをギョロリと睨む目が生まれた。もし、まつ目をちゃんと使っていたら――
【No.414 肉離れ】
肉の食べ比べに訪れた客に「左からザブトン、ミスジ、サンカクです」と説明すると「私は食通だぞ! 言われなくてもわかってる!」と激昂した。そこで店員は「あっ」と気付く。本当は左からではなく右からだったのだ。「さすがザブトン、脂が多くてとろけるなぁ」店員は特に訂正もしなかった
【No.415 マナー講座】
おかしな光景を見た。若いサラリーマン2人が名刺を持って地面にはいつくばっているのだ。後日、テレビでマナー講座の番組を見かける。相手より低い位置で名刺を出さないといけない。相手より先にもらってはいけない。前に見たサラリーマン2人の光景を思い出す。なるほど。おかしなマナーだ
【No.416 理想の上司】
仕事が辛くて上司に相談する。上司はしばらく悩んだあと「みんながんばってるんだから」と諭す。だからお前もがんばれということなんだろう。すると続けて「だからお前1人くらいがんばらなくてもいいだろう」と笑った。数日の療養期間をもらい、夜は焼肉に連れて行ってもらえることになった
【No.417 ベストピクチャー】
真っ白な部屋だった。ふと気が付くと、床に一本のマジックが置いてあった。どうぞお好きなように。そんな風に囁かれたような気分になって、次の瞬間には壁を塗りたくっていた。どうぞお好きなように、どうぞお好きなように。次から次へと描きたい事が溢れて、何も考えずにひたすら描き続けた
【No.418 シイハ】
友人の創作活動が世間的に評価されて、今日はお祝いにパーティーを開くことにした。途中、手土産を買うために調味料屋へ寄る。恨味、妬味、僻味。どれも馴染みがないものばかりだ。誰かの成功は素直に喜びたい。味見をすると初めて食べたはずなのに、なぜか、最近味わったことのある気がした
【No.419 飽き冷め前線】
「もうすぐ飽き冷め前線がやってきます。心の移り変わりに気を付けてください」とニュースが流れる。この気圧に当たられると、心は否応なく感傷的になってしまう。生きる気力も、誰かを想う気持ちも。飽きて、冷めて、やがて失ってしまう。「今日は家の中にいようか」彼女は眠ったままだった
【No.420 人間の種】
人間の種というものを買ってきた。興味本位で植えてみると、土から目を覗かせる。僕のことを見つけた途端、歯が剥き出しになって鼻が咲く。このまま育てばやがて人間になるのか。気味が悪くなって庭先に捨てる。あれから数日後、外から「ヨ…ブン……ヨブ…ン」という呻き声が聞こえてきた
【No.421 頭の良い人にだけ読める物語】
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【No.422 部屋の主】
人の気配がして押入れに隠れる。隙間から顔を覗かせると若い女性が立っていた。周囲を気にして何か慌てているようだ。タンス、クローゼット、机の引き出しを漁っていた。息を殺してその様子をしばらく伺う。女性が電話を取り出して、静かに呼吸を整えた。「誰かが家の中に進入したみたいです」
【No.423 ワンミーツハー】
道端で女性が倒れていた。傍らには携帯電話が転がっている。警察官達の会話が聞こえてくる。ネットの言葉が心臓に突き刺さったのが死因だそうだ。こんなにも大勢の人が行き交っているのに、彼女を刺した「誰か」の声も、顔も、性別も、見た目もわからない。誰一人として、目撃者がいないのだ
【No.424 味のある絵】
「私の絵、うまいですか?」と美術部の先輩に評価してもらう。先輩は「見た目はうまいんだけどな」とキャンバスを食べ始める。「ちょっと脂っこいというか、深みがないんだよね」なるほど。その場で小豆色、栗色、蜜柑色を加えてマイルドにする。もう一度試色もらうと「うまいなぁ」と笑った
【No.425 霧病息災】
露天商の老人から『万事急須』なるものを買った。「あらゆることが良い方向に流れるように」そういった願いが込められているらしい。おまけでもらった『むびょうそくさい風味』の茶葉を入れて蒸らす。部屋には霧が立ち込めていき、やがて意識が朦朧としていった。ドアに手を伸ばす。伸ばした
【No.426 新海クッキング】
港に行くと中年の漁師から料理会に招かれる。メンダコの卵を塩辛く和えたメンダイコ、尻尾を折ると甘い液が出るプッチンアナゴ。どれも不思議で奇妙な料理ばかりだ。ふと、漁師が呻き声を上げて倒れる。包丁を持った海女さんが僕の方を見た。「ごめんね。食材のオジサンが逃げ出しちゃって」
【No.427 エンドロールエンド】
夢を見た。僕の一生を映画化したそうだ。さぞかし超大作だろうと思っていたら、どうやら短編映像らしい。登場人物は少なく、観客はまばらで、話の起伏もほとんど存在しない。エンドロールが終わる。それでも、カーテンコールに何かあると信じて。夢から覚めたあとも、ずっと、動けずにいた
【No.428 椅子取りゲーム(いろは式「い」)】
椅子取りゲームが社会の縮図だった。小学生のころ、あの楽しげな音楽に合わせて数少ない椅子を取り合っていた。笑いながら。蹴落としながら。今にして思えば、あれは遊びの皮を被った、この先を生き抜くための必修科目だったのだろう。優しい人から、臆病な人から順に人生の席を奪われていく
【No.429 ロストデータ(いろは式「ろ」)】
老朽化した思い出を整理する。⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀『消去してもよろしいですか?』⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀⠀はい。⠀ ⠀ ⠀
⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀『保護記憶を除き、全件削除しました。』
【No.430 ハッシュタグ(いろは式「は」)】
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【No.431 にらめっこ(いろは式「に」)】
「にーらめっこしーましょ」ないてるこがいたから「わらうとかちよ」とつぶやいた。「あっぷっぷ」ないてるこはなかなかわらわなかった。「にーらめっこしーましょ」くちをふくらませる。「ぷっぷー」いきをはく。「わらってるほうがすてきよ」とほほえむ。ないてるこ、あっぷっぷ。わらった
【No.432 歩道橋と走馬灯(いろは式「ほ」)】
歩道橋の真ん中で寂びた街を見下ろす。幼稚園児だった妹は、私の呼ぶ声で駆けてきてトラックに轢かれてしまった。キシ、キシ、と鳴る音が妹の悲鳴にも聞こえる。それから、私は声を出すことができなくなってしまった。階段を蹴る音が上っているのか、下っているのか、今でも分からずにいた
【No.433 ヘリウムガール(いろは式「へ」)】
「変な子」と思われないように。私の個性が、浮かばないように。クラスでは『自分』を沈めていた。深く深く潜るため、淡い期待も、軽い気体になって心から吐き出す。「空気の読めない子」と思われないように。私の存在が、浮かないように。息を吸って、淀みを吐いて。深海で生きていくように
【No.434 といぼっくす(いろは式「と」)】
止まったままのオルゴールがおもちゃ箱から出てくる。タイヤの取れたミニカー。笑わないフラワーロック。子どものころ、幼なじみだった女の子のおもちゃが紛れ込んでいた。あの日、本当のことを伝えていれば。止まったままのオルゴールを回す。音は鳴らない。回す。鳴らない。回した。音は、
【No.435 地図にない街(いろは式「ち」)】
チカチカと目の前が弾けて、気付いたら知らない街にいた。赤い公園のベンチで腰を下ろすと、四十代くらいの女性が隣に座った。「最近はこの街に迷い込む子が多くてね。あなたはまだ若いんだから早く帰りなさい」と悲しそうな顔をする。ベンチに背中を預けて眠る。街はもう、どこにもなかった
【No.436 離怨(いろは式「り」)】
「理解なんてできなくていいよ」と呟いていた隣に住む女子高生は、いじめてくる同級生ともみ合って階段から突き落としてしまった。大人になりたいが口癖だった彼女は、誰からも名前を呼ばれることがなくて、大人になりたいが口癖だった彼女は、気付けば、大人じゃなくて少女Aになってしまった
【No.437 ぬまる(いろは式「ぬ」)】
ぬかるみにハマった女性がいたので声をかけると、その人は「浅いと思って踏み入ったら、案外深くて抜け出せなくなりました」と苦笑いする。感情任せに体を動かすと、財布からとめどなくお金が落ちていく。どんどん沼に体が埋まって心配になるけれど、やがて女性はにこやかに沼へ沈んでいった
【No.438 ルールワード(いろは式「る」)】
ルールシートを確認する。言葉の消費期限は意外と短い。執筆後、しっかり検査や確認をしないで寝かせると、言葉の意味が変わってしまったり誤字が増殖する。奥深くまで浸透してしまった意味や誤字を取り除く作業は根拠がいる。けれど、厳しい品質チェックが終わってやっと世の中に出せるのだ
【No.439 をかしな関係(いろは式「を」)】
「を」と「お」の違いを聞くと、お姉さんは「たまに書けなくなるのが『を』で、たまに点を忘れるのが『お』だよ」と真面目に答える。戸惑っていたら「さては君、『猫』と『描』で悩むタイプだね」となぜか勝ち誇る。このお姉さんに芽生えた感情が、未だに「恋」か「変」かでわからずにいた
【No.440 ワスレナグサ(いろは式「わ」)】
「ワスレナグサを天ぷらに、あれ、おひたしだっけ? とにかく、食べるともの忘れがなくなるんだって、なんかのテレビかラジオで知ったの。え、嘘だって? 本当よ。だって、あのー、名前は出てこないけど有名な料理家、じゃなかった。研究家? が言ってたもの。それに、私は毎日食べてるのよ」
【No.441 感覚物体(いろは式「か」)】
体の大きさが三倍のサバが泳ぐ。それに感銘を受けたカメが涙を流して、関西まで勝手にカサが飛んでいく。未知の生命体「感覚物体『ンイ』」が入り込むと、その物の行動や性質を変えてしまう。こいつを使って金儲けをしよう。その瞬間『ンイ』が僕の頭に入り込んで、体を人外に変えてしまった
【No.442 よふかしのうた(いろは式「よ」)】
予習のために参考書とにらめっこする。ふと息抜きに昔はやっていたSNSを開く。赤文字で『新着コメントが1件あります』と表示されていた。昔はあんなに喜んでいたのに。大切になれなかった子の、最後の繋がりだった。赤文字をチェックシートで隠す。あの子の言葉も、思い出も、見えなくなった
【No.443 タイムタッパー(いろは式「た」)】
タッパーに思い出を詰め込む。冷蔵庫の中を整理するついでに別のタッパーを取り出した。クリスマスの記憶。初デートの期待。何を保存したのか思い出せなくてフタを開けると、原型を留めないほどに腐っていた。廃れて、錆びて、朽ちて。ラベルを確認すると掠れた文字で「夢」と書かれていた
【No.444 レゾンメートル(いろは式「れ」)】
レーズンパンのレーズンだけを、くり抜いて食べる子だと知ってからは別れが早かった。一緒に食べてこそ酸味と甘みが際立つのに、これじゃ存在意義を失ってしまう。くり抜かれたのが僕なのか、はたまた彼女自身だったのか。いびつに穴の空いたパンが、まるで僕らの空白を表しているようだった
【No.445 その訳を(いろは式「そ」)】
騒音で目が覚める。なかなか起きない僕に痺れを切らして、彼女が不機嫌になりながら僕の頭を掃除機で小突く。「この家に住むのも今日で最後でしょ」と笑って音楽をかけた。スピーカーからは『思い描くことさえ 僕らは忘れたよ』と流れる。嘘のように、別れにしてはおだやか過ぎる午後だった
【No.446 つぎはぎ(いろは式「つ」)】
「次は性格ですがこちらの中から選んでいただきます」施設員がチェックリストを渡しながら説明する。今では子どもの見た目・声・性別・才能さえも人工的につぎはぎできる。望まれない子どもを産まないために。より良い社会にするために。感情も、将来も、つぎはぎされた寄せ集めの未来だった
【No.447 ネジ巻き式(いろは式「ね」)】
ネジ巻き式の幸せなのかもしれない。オルゴールのネジを巻くと、巻いた分だけ透明感のある音色が流れる。綺麗なものはいつだって機械仕掛けだった。そうやって自作自演の幸せを聞いている内に、ネジは錆びれて、音は歪んで。巻いて、巻いて。いつのまにかオルゴールは鳴らなくなってしまった
【No.448 名前泥棒(いろは式「な」)】
名前を盗まれる事件が増えた。ガードレールの丸まった部分。本屋でお腹が痛くなる現象。視力検査のC。パン袋の留め具。今朝、盗んだ犯人が捕まったそうだ。その途端に名前を思い出す。袖ビーム。青木まりこ現象。ランドルト環。それでも、パン袋の留め具だけは、何度聞いても盗まれてしまった
【No.449 らんどせる(いろは式「ら」)】
ランドセル達が喧嘩したそうだ。聞けば他のランドセルとぶつかったらしい。娘は「一緒に謝ってあげる」と仲直りしに行くことになった。娘が「私のランドセルがごめんなさい」と頭を下げると、フタが開いて中の教科書がバタバタと落ちる。その様子に相手のランドセルも大笑いして仲直りできた
【No.450 無音(いろは式「む」)】
無観客試合、撮影、公演が多くなった今、自分の価値観を確かめる術が希薄になっていった。無声映画のワンシーンだけを切り取ったように、正しい情報が伝わらない。正しい評価が下されない。ネットの正しい声だけが大きくなっていく。正しい街の、正しい人達によって、正しい終焉を迎えていく
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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652