北の晩秋と初冬の狭間。
変えられるものと変えられないもの。
澱の様にたまる虚しさ。
絡みつく事情。
移ろう季節。
目指したのは、東。
晩秋と銀世界の狭間は人が少ない筈。
訪れた場所たち
オンネトー
札幌から車を走らせる事4時間弱。
百名山が一角、雌阿寒岳のほとりにある。
夏は百名山ハンターとインバウンドで賑わうこの地も静謐に包まれていた。
思いの外気温が高く雌阿寒岳は白い衣を纏ってはいなかった。
(トレランシューズでも持って来ればよかったか?)
ちびりと考えたが致し方なし。
その判断を下したのはおれだし、そういうものだ。
ただそこに在る自然に耽溺した。
次の目的地を目指す。
阿寒湖
オンネトーから車で30分ほどだったか。
まりもの名産地、阿寒湖。
阿寒湖を経ち屈斜路湖を目指す。
屈斜路湖
オオハクチョウの営巣地及びクッシーで有名な屈斜路湖に着到した。
*クッシー=UMAの一種。
湖畔には野湯があり水着を装備して入湯できる。
おれは中年男性特有のだらしない体を晒して入湯した。
白鳥を眺めながらぼんやりと考えていた。
白鳥の騎士ローエングリン。
白鳥が引く小舟に乗って登場する騎士のコスプレをした限界中年男性。
絵面が汚ねえなあ。
1人でクスクス笑っていたが虚しくなった。
XB-70は白鳥っぽいデザインよなとか、おれにスワンソングは歌えるのかとか。
詩も曲も作らずしてスワンソングもクソもないが。
白鳥とか湖から引っ掛けて万葉集の1つでも諳んじる事が出来ればいいのに。
これだってうろ覚えでさ。
(なんだっけ...白鳥は悲しいンゴねぇ...空の青さにまにまに漂う...いや違う...出てこねえ...ああ...!!)
フガフガ言いながらなんとなく思い出してスマホで調べて答え合わせをしたという。
湖畔の宿
リゾートホテルも悪くはないのだがたまには違う毛色の宿に泊まりたい。
そんな思いで辿り着いた場所。
湖畔にあるペンション。
老夫婦が経営しているらしい。
日没まで時間があるのでペンション向かいの湖畔へ。
宿に戻る。
チェックインした後、露天風呂へ入りに行く。
宿主曰く誘導灯は自動点灯式らしい。
まだ点いていないので暗いですよと言われたが闇を掻き分けて行く。
核戦争ののち、滅びゆく世界で入る温泉と思えば。
倒錯した感傷に浸りながら闇を眺める。
翌朝。
次の目的地へ。
野付半島
北海道の東の果て。
野鳥の楽園、野付半島。
一般車両通行止めゲートより先、砂嘴の先端までは往復13km。
(野鳥撮影カメラ野郎たちの機材重量を考えるとあいつら絶対一般車両で侵入しているよな。)
そう思ったのだが、真面目に歩いて突入した。
旅の終わりの妄想
ライフルを片手にブーツで廃屋の扉を蹴破り侵入した。
食料や燃料はないかと廃屋を漁ったが、何も見つからなかった。
寝室には親子らしき白骨死体が3体並んでいた。
廃屋内で毛布に包まり軍用レーションを食す。
窓の外を眺める。
灰色の雪が舞っていた。
どうして世界はこうなってしまったのか。
少しずつ何かが狂っていたのは間違いなかった。
皆、ただ日々を過ごしそれに目を背け続けていたのだと思う。
いや、誰にも止めることはできなかったのかもしれない。
蔓延する疫病,振り翳される正義,失われた大義。
ディスプレイ超しに眺めたキノコ雲。
自身の住む街にキノコ雲が立ち昇るまで遅くはなかった。
その日のことをおれは出先のラジオで知った。
家族も友人も知り人も連絡は取れなかった。
ほとんどの人間は最初の冬を越せずに死んだと思う。
それでも冬の間はまだよかった。
途切れ途切れだが情報と物資は届いていた。
2月。
苫小牧に入船したフェリーに押し寄せる群衆。
バリケードを作り押し留めようとする自衛隊。
罵声と投石の中から銃声が聞こえた。
いや、あれは銃声ではなかったのかもしれない。
いまとなってはわからない。
数秒の後、自衛隊は小銃で応射し、全ての幻想は打ち砕かれた。
雪解けの頃には電気も電波も情報も途絶えた。
生き残る為に獣性を剥き出しにする人間たち。
カルトに占領された村,略奪者,スカベンジャー。
国道274号を東に向けて歩く避難民の群れ。
ーーー
そんな妄想をしながら帰路を歩き続けた。
そもそも核弾頭は初手東京に着弾するだろうし、その時点で日本という国家は機能不全に陥るだろうからこの妄想は設定が甘いよなとか。
プレッバーみたいに備えようかしらね、終末の日々に向けて。
そう終末の日々。
現実の末路は築数十年のアパートの床の染みかな。
以上。
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