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『彼方のうた』杉田協士監督

映画『彼方のうた』を公開初日に渋谷シネクイントで観ました。監督のトークもあり、新年最初の映画でした。今年最初の外出は初詣ではなく石川県への義援金を振り込むためゆうちょ銀行になりましたが……。

渋谷はシアター・イメージフォーラムやヒューマントラストシネマ渋谷にはよく行きますが、シネクイントは初なので楽しみにしていました。パルコのミニシアターでロフトの横、お正月の渋谷は大勢の人で賑わい、渋谷のビル群と国旗を見たときにお正月を実感しました。

ここからは映画の内容に大きく触れますのでご了承願います。

冒頭主人公の春がカセットレコーダーを聴いているところから始まる。

始まりから主人公の春を演じる小川あんさんの目や声に惹きつけられる。

春がベンチに座っている雪子に道を尋ねる。でもそれは雪子に声を掛けるためのもので……

どんなに誰かと一緒にいたい気分でも、初対面で道案内をしただけの人をいきなり自宅に上げ、料理を振る舞うだろうか。それは春の持つ空気感がそうさせるのだろう。

作品では料理を作るシーンがとてもしっかり映し出されておりカットはしない。そのまま食卓まで運ぶ。そして二人で「いただきます」をする。その様子がすごく丁寧で、食事をするシーンが特に好きだった。

春は雪子に声を掛けたとき、サングラスをしている。
それは剛の後をつけるときもだった。剛にバレないように変装なのかなとも考えられる。

春はマスクにゴールドのチェーンをしていて、緑色のセーターに映える。シンプルだけどオシャレだなと思った。サングラスももしかしたらファッションや日除けかもしれない。

剛の娘の咲とテラスでタバコを吸うシーンも印象的だった。会話は「灰皿… 」だけでただ二人でタバコを吸っている。その空間がとてもよかった。

劇中春と雪子がカセットテープに残された川の音を探し上田へバイクで向かう。『春原さんのうた』でもバイクの二人乗りが出てきた。バイクの二人乗りは昔から憧れていて、前作でも今作でもいいなぁと思った。服装はちゃんとセーターにダウンジャケット、パンツ、ストールの巻き方飛んでいかないように後ろかな、やっぱ後ろだった、そんな軽い巻き方でいいんだ、などともしかしたらいつか乗れるかもしれないので服装をしっかりチェックしていたりした。

劇中上田映劇で二人が観た映画、濱口竜介監督の『偶然と想像』の流れたセリフはまさに自分が常に思い悩んでいることだった。そのときにこの作品のタイトル『彼方のうた』も意識して観た。
過去の思い出でもう忘れ去ってしまったこと、それを探し出そうとしているようにみえるが、この世界ではない、向こうの世界に雪子や剛、そして春、皆想いを馳せているのかもしれない。

駐輪場前で春が立っているシーン。フランスパンを抱え、これから雪子の家に行くんだなと、とても長い時間その場所で動かない。

その後の雪子がオムレツを作っているとき、春がフランスパンを切って出したとき、なぜか過去の、幸せだと感じたとある人との会話が思い浮かんだ。ほんの数秒の他愛もない、自分にとって確かに幸せだった出来事。思い出して、そして泣いた。悲しさから。そのとき雪子が春を見送るときだった。

雪子が「ダメだよ」と言う。

間がある。

春を抱きしめる腕の、ピンクの服。

春の表情。

やっとこちらの世界に戻ってきたような。

















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