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名実ともに自民党政権となった小池都政3期目は4年続くのか【都知事選2024】

 深夜のフジテレビのバラエティー番組に石丸伸二が生出演していた。扱い方としては、これが正しい。石丸はあくまで色物であって、堅実な報道番組には似合わない。本来、収まるべきところに収まったのだ。彼をキャスティングしようとしたプロデューサーの感性は的確だ。次は吉本新喜劇だろうか。ならば、自ら断った維新路線への布石になるだろう。
 一方、テレビ朝日はいただけない。朝から昼まで半日、石丸祭り。番組を制作する本人たち的には「報道」をやってるつもりなのが絶望的だ。救いがない。石丸をスタジオの真ん中に座らせ、コメンテーターたちがド詰めにすれば、彼のパワハラ的資質はすぐにバレる。にもかかわらず、当たりの良い女性をインタビュワーとして、都知事選開票当日のダークイメージを払拭しようという石丸のブランディングに応えている。テレ朝のジャーナリズムは死んだ。

都知事選後の醜悪な蓮舫さんたたき

 今回の都知事選ではX(旧Twitter)の言論空間はここまで醜悪になったのかとあっけにとられた。
 選挙期間中の小池シンパの政治家たちのポストは、蓮舫さんだけでなく、その支持者までをもおとしめるもので、嘲笑と冷笑に満ち溢れていた。元々、都知事選には政策論戦などない。小池百合子が8年前、「自民党都連のブラックボックス」などと言っていたが、都政には何の関係もない内輪話で、政策ではない。それにしても、小池シンパの政治家たちからは、小池という女帝の権力の高みから見下ろす優越感を見たような気がする。高みから見下ろす景色は、さぞ気持ち良かったのだろう。あの幼稚ささえ感じる嘲笑、冷笑は、小学校、中学校でいじめっ子の「側近」となり、クラスの弱い者たちを上から目線で見下ろしていたガキたちと似ている。『ドラえもん』であればスネ夫だし、『じゃりン子チエ』ならマサルの腰ぎんちゃく・タカシのような存在だ。薄っぺらで中身がない割にはやけにエラそうだ。
 告示前くらいに始まった公選法違反探しごっこはかつてない低レベルだった。選挙前に立候補予定者が街頭演説したり、支援政党が応援に入ることはこれまでもいくらでもあった。自民党を筆頭にほとんどの政党がやっている。蓮舫さんの演説の言葉尻だけ捉えてバカ騒ぎしているが、それでは投票日が過ぎて、蓮舫陣営からだれか警察によって検挙されただろうか。警告があっただろうか。一度そこで「判例」ができてしまえば、次の選挙から全政党、全候補者にも適用されるだろう。警察はそこまでアホではない。SNSの公選法違反ごっこは警察案件ではなく、これからXの娯楽として残るだろう。今回は蓮舫さん一択で展開されたが、次の衆院選当たりからは全包囲で通報・ポストが始まる。あれはどうだ、これはどうだと、針小棒大なあら探しが展開され、どんどん選挙運動の幅が狭くなる。〝にっくき左翼〟をたたきたいだけだったのに、いつかは自分の首を絞めるのだ。
 蓮舫さんの過去の発言に引っかけた誹謗中傷も多かった。これは報道機関まで図に乗って「2位もダメだった」などと嘲笑していた。選挙期間中の情勢調査による揺さぶりにも使われた。都知事選が1位じゃなきゃダメなのは当たり前で、2位か3位かなどどうでもいいことだ。にもかかわらず、蓮舫か石丸かという滑稽な二者択一が、SNSで議論されていた。それに加え、蓮舫さんは怖いだの、女に嫌われているだの、言いたい放題である。
 投票日が過ぎると、こんどはRシールバカ騒ぎ。本当にどうでもいい。気づいた人がはがせばいいではないか。それだけのことだ。
 勘違いしてほしくないが、私はRシールを張る行為を1%も許容できない。街に増えれば増えるほど、候補者に対する逆流になる。選挙期間中にはぜったいにやっちゃいけない。権力を甘く見てはいけない。奴らは歩行者信号を無視しただけでも捕まえに来る。どのような場面でも自由な政治的パフォーマンスは確保されるべきものだが、権力と対峙しているという緊張感を忘れるべきではない。前回の参院選を取材していたら、自民党のある陣営は候補者が横断歩道を渡ることにも気を使っていた。白線から外れないように誘導していた。街宣で運動員や聴衆が点字ブロックを踏まないよう呼びかけているのも必要な配慮である。
 しかし、Rシールが都知事選においてどこまで優先順位が高いのか疑問だ。だれもだれがどこで配ったのか把握していない。だれもどこで張ったのか全容を把握していない。しかし、蓮舫さんや支持者たちを「大きな主語」で攻め立てる。要するに、リベラル・左翼を貶めたいだけだ。水に落ちた犬をみんなでたたくには絶好の小ネタなのだ。公選法違反探しごっこと同じレベルで幼稚である(張った方も幼稚だが)。

3期目の小池都政が抱える地雷

 マスコミがどこも触れないことが、小池百合子の得票数である。4年前に一度も街頭に立たずに366万票を獲得した現職が、今回、自民党の支援を受けながら291万票しか獲得できなかった。たった4年で75万票減らしている。何度も書いているが、都知事選で現職に勝つには250万票必要だ。蓮舫+石丸で293万票を獲得している。選挙戦前半、蓮舫さんは確かに小池を射程に入れていたのだ。結果論でどうこう言っても仕方ないが、ようやく小池都政のメッキがはがれてきたのだ。これは本当に貴重な一歩だったと思う。

 一方、これまでの小池都政と、これから4年の小池都政は大きく変わってくるはずだ。自民党は2021年都議選で100万票以上出している。自公合わせると180万票近い。都ファは風任せの受け皿政党だから、基礎票がほとんどない。小池にとっては今回の都知事選、自民党さまさまなのだ。しかも、石丸の選挙は自民党都連の幹部がやっている。あの選挙の上手さがあってこそ、石丸は蓮舫さんから無党派層の票を奪ったのだ。自民党のまとまった組織票を投入し、さらに蓮舫さんを石丸によって無力化した。小池にとってはもう、自民党には頭が上がらない。
 つまり、小池都政の3期目とはすなわち自民党都政なのである。都ファが与党としてデカい面ができるのは都議選まで。1年後、自民党は岸田文雄が総裁であるはずもなく、新しい顔で支持率を回復させているだろう。都議選で議席を減らして、与党内での発言力が弱まれば、なおさら小池都政とは自公主導の都政ということになる。あの承認欲求のかたまりのような小池にそれが耐えられるのであろうか。
 今回の都知事選で明らかになった三井不動産との癒着。延々と続くカイロ大学学歴詐称疑惑。小池都政は地雷を抱え込んだまま、3期目に突入するのだ。小池シンパが投票日を過ぎてもいまだ蓮舫下げに必死になっているのは、そういう暗部を隠すためでしかない。かつて猪瀬都政も、舛添都政も、自民党と公明党が主導で支えてきた。しかし、たった一夜で自分たちが支えた知事を切り捨てている。
 そう考えると、私は小池都政が4年続くとはにわかに信じがたい。猪瀬直樹は400万票を獲得して、向かうところ敵なしだったが、都議選を境に形勢が逆転した。それは、都知事選で示された民意が1年で賞味期限切れし、都議選で新たな民意が都政を支配したからだ。かつて都政は、都知事選、都議選と2年ごとの選挙で民意のバランスをとってきた。しかし、石原が任期途中で辞職し、都知事選の間隔が変わり、民意のバランスが崩れた。これが都知事の任期途中での辞職が続いた一つの要因でもある。

水に落ちた犬をたたく快楽

 水に落ちた犬をたたくのは、これ以上ない快楽である。自分はそこに参加したくないが、Xでの小池シンパの蓮舫さんたたきを眺めていて、本当に楽しいのだなと思った。スマホやパソコンの画面を眺めるニヤついた顔が目に浮かぶ。「2位ではだめなんですか?」と言っていた女が、よもやの3位なのだ。もう笑いが止まらないのではないか。しかも自分たちが応援した候補は圧勝し、まさに大きな「女帝」という権力の高みに自分たちがいるような昂揚感も得られる。タイムラインにあふれる嘲笑と冷笑。世のおじさんたちがXにハマる理由がわかる。
 少なくとも4年以内に小池百合子のいない都知事選がある。現職のいない都知事選は〝無敵〟だ。有象無象の候補者たちが乱立するカオスとなるだろう。当選ラインも下がり、200万票なくても当選する(250万票をめざすという構えは変わらないが)。考えただけでも辟易としてしまう。
 東京都という広域自治体にふさわしい、まともな都政を取り戻すにはどうしたらいいのか。今回、蓮舫さんを支援した人たちは、あれだけ大きなムーブメントになっていたのに、なぜ有権者に届かなかったのか疑問を持つだろう。しかし、あの盛り上がりは、駅の片隅を黙って通り過ぎる人たち、冷たい目で遠くから見つめている人たちに届いていただろうか。盛り上がりの外にいる人たちに届いていただろうか。往々にして自己満足に陥っていなかっただろうか。盛り上がりを広げることばかり考えて、盛り上がりの外に向かって何をどう届けるのか考えていただろうか。
 都知事選で250万票を獲得するには政党の基礎票では足りない。膨大な無党派層が投票しなければ、形勢を変えられない。
 石丸のようなネット戦略が弱かったという意見もあるだろう。だが、あのデタラメなショート動画を蓮舫さんがまねしていいのか。石丸シンパの幼稚な石丸礼賛をまねしていればいいのか。炎上商法でいいのか。かといって、小池シンパがやっていた嘲笑、冷笑でいいのか。
 では、どうしたらいいのか。どうしようもなく難しい課題なのだ。ハッキリ言えるのは、そう簡単に答えなど出ないということだ。野党共闘だって、最初はひどいもんだった。その前はもっと地獄だった。一つひとつの試みが4年に一度、少しずつ進化している。
 答えはそんなに簡単に出ない。だから、出さなくていい。4年に一度の選挙で過去を全面否定する必要はない。
 少なくとも、今回勝利を得た人たちがやっている嘲笑と冷笑でXのタイムラインを埋め尽くす行為だけは慎もうではないか。次の都知事選で、自分たちが応援する候補の陣営だけは、希望と期待に満ち溢れていたと評価してもらえるように。

 『進撃の巨人』で、調査兵団分隊長のハンジの「なに言ってんの?調査兵団はいまだに負けたことしかないんだよ?」というセリフが好きだ。漫画やアニメを見た人はご存知だろうが、調査兵団は負け続けない。膨大な犠牲のうえに勝利をつかみ取る。調査兵団は、負けるとわかっているたたかいを挑んだ敗北主義者だったのだろうか。私はそうは思えない。数え切れない犠牲のうえに、どうしようもない試練を経て、たった1勝を勝ち取るのだ。
 1995年に初めて都知事選にかかわって29年になる。都知事選ではまだ負けたことしかない。ぜったいに勝てる。信じている。


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