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小池百合子がすがった市区町村長「有志」の〝出馬要請〟こそ自民党政治の真髄【都知事選2024】

 最初に都知事選に絡んだのは1995年。青島幸男が酔っ払いながら都知事選への挑戦を表明し、オール与党が推す石原信雄をぶっちぎって初当選を果たした。保守でも革新でもない無党派旋風。自民党が擁立した石原が惨敗し、共産党が推した黒木三郎は30万票という撃沈。時代が変わるという昂揚感と、政党政治がぶっ壊れた無力感の両方を味わった。

 都知事選において、あれからずっと政党は無力である。とりわけ自民党の存在感の薄さは尋常ではない。いくら「勝てる候補」を探して奔走しても勝てない。たまたま勝っても短期政権に終わる。

 1999年に石原慎太郎が都知事になって以来、かれこれ四半世紀、都政はずっと右派ポピュリズムに支配され、翻弄(ほんろう)され続けている。自民党は今回、石原都政と同様、小池百合子には勝てないと判断し、右派ポピュリズムに屈する形で小池3選を支援する立場に転落した。8年前、対立候補を立ててたたかった大義を翻した裏切りである。

典型的な自民党型の票固め

 自民党のステルス戦略とか言われるが、今回の小池の選挙は明らかに自民党の選挙だ。

小池百合子知事への出馬要請に加わらなかった首長たちは次の通り。
保坂展人・世田谷区長
長谷部健・渋谷区長
酒井直人・中野区長
岸本聡子・杉並区長
酒井大史・立川市長
石阪丈一・町田市長
白井亨・小金井市長
小林洋子・小平市長
阿部裕行・多摩市長
高橋勝浩・稲城市長

東京新聞2024年5月28日

 52人の市区町村長が小池知事に出馬要請を行ったという。特別区長会も東京都市長会も町村会も、それぞれ任意団体でしかないが、それでも民意で選ばれた公的な存在には違いない。それがこぞって特定候補の出馬を要請するのは尋常ではない。

 しかし、都知事選ではこれまで当たり前のように行われてきた。典型的な自民党の票固めの一環である。

 ちなみに、8年前の都知事選では、やはり区長会「有志」が増田寛也元総務相に出馬を要請し、市長会などもそれを追認して支持している。2014年に舛添要一元参院議員が出馬を表明したときには、同じように「有志」が支持を表明した。

 「有志」であるのにはわけがある。上記のように東京の首長は一枚岩ではないからである。保坂氏や岸本氏のようにあからさまに反自民を掲げて当選した首長もいる。かつては区長会が公明正大に、自民党の都知事候補を支持表明したこともあった。それはどこもオール与党の首長ばかりだったからである。それが1990年代に足立区や狛江市で共産党員首長が誕生すると、そんなことはできなくなった。

出馬要請問題の本質は公選法違反ではない

 東京都内の52区市町村長が小池百合子知事に知事選出馬を要請したことを巡り、都民ら175人が26日、5月に調布市の長友貴樹(よしき)市長に要請を打診した疑いがあるとして、小池知事を公選法違反(公務員の地位利用)容疑で東京地検に告発した。

東京新聞2024年6月26日

 今回、小池知事が「出馬要請」を自作自演したと言われているが、事の真相はわからない。おそらく、知事本人が動いたわけではなく、側近や副知事が動いたのだろう。無駄にプライドばかり肥大化した小池がそんな恥ずかしい真似ができるわけもなく、日頃から区長会や市長会との関係が深い副知事が両者をつないだと考えるのが妥当だ。

 この問題の本質は、それが公選法違反かどうかではない。

 こういう首長の束ね方自体が、自民党が長年にわたり続けてきた都知事選における「組織」固めの一環であるということだ。

 「自民党都連のブラックボックス」などと当時の自民党をたたいて当選した小池百合子が、こういう形でバリバリの自民党的な選挙をやるというのが、彼女が今回、いかに追い詰められているのかを証明している。まさに、自民党の軍門に下ったのだ。

 自民党側からすれば、派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件で岸田内閣の支持率ががた落ちし、党の支持率すら落ち込み、各地の首長選で次々と負けているのである。ここで小池の〝右派ポピュリズム〟の恩恵に預かり、党支持率の浮揚につなげることができる。つまり、ポスト岸田の政局に彼女を利用できる。

都知事が市区町村に対して持つ絶大な権力

 52人もの首長がわざわざ出馬要請するのには、単に自民党のご機嫌を取っているわけではない。都知事の権力は絶大なのだ。

 例えば、都は2023年度に23区に対して、1兆2000億円もの「都区財政調整交付金」を交付している。東京23区では、法人住民税、固定資産税、特別区土地保有税などを都と区で分け合っていて、都が課税し、区に配分している。これが消えれば、例えば練馬区や足立区などはあっという間に財政再建団体に転落する。

 市町村に対しては600億円弱の市町村総合交付金を配っている。これはいわば、「多摩格差」を解消するための市町村版「都区財調」みたいなもので、やはり市町村財政に大きな影響を与えている。

 道府県知事はどこでもそれなりの市町村に対する権力を有しているものだが、東京は桁違いだ。

 だから、〝踏み絵〟は踏んでおこうということになる。

 しかし、悲しいかな、この手の「有志」の支持表明は増田寛也にせよ舛添要一にせよ、無駄な絵を踏まされた感はある。それでも再びやっちまうのは、それが自民党の流儀だからだ。こうして首長たちは予算を獲得し、議会与党からも頭をなでてもらえる。自分たちの選挙となれば、知事がお出ましになる。二重三重の利権構造なのである。

 一時期、ドンキホーテのごとく単独推薦候補をぶつけてきた共産党は、長く続く右派ポピュリズムの台頭に危機感を持ち、一皮むけて〝共闘〟の道を選んだ。宇都宮健二、鳥越俊太郎、そして蓮舫。なかにはひどい候補もいたが、国政野党第1党の意向を尊重し、決まれば全力で票を出してくる。

 自民党はまだ、こういう〝踏み絵〟に頼り、石原慎太郎と同じく、自らの牙をむいた政治家に乗っかることで利権を守ろうとする。変わらない組織だなあと思う。

 過去の衆院選比例票を見ると、自民党の有権者比での得票率は2割弱しかない。明らかに支持基盤が細ってきているのだが、それでも〝政権〟は獲りたい。だから水と油みたいな存在の創価学会=公明党に頼る。例え同床異夢であっても、小池に乗っかる。

 小池3選の先に何が見えるのか。

 それはまた、次の機会にでも。

#蓮舫流行ってる

 都知事選をめぐる景色は異様なもので、有権者を迷走させている。蓮舫さんの情勢は非常に厳しくなってきた。それでも蓮舫支持を変えるつもりはない。都政が右派ポピュリズムを克服するには、蓮舫さんしかいない。


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