スライド1

ソーシャルゲームマーケティングで再現性を持って成果を出す方法(前編)

・想定する読者
ソーシャルゲームマーケティングに関わる全ての方
・本記事を読むメリット
ソーシャルゲームのマーケティング活動の原理原則が理解できます。ですので、自社コンテンツのマーケティング活動のどのマーケティングフローが欠損しているかを確認することが出来ます。

よくソーシャルゲームを開発→リリース→運営をするにあたって、当たり外れは出してみないと分からないだ、開発の初期構想がすべてで、そこがイケてないと失敗する。という話はあるあるではないでしょうか。

アプリゲームを作る初期構想から入れる場合とそうでない場合があります。そして、往々にして後者の場合が多いと思います。何故なら、モバイルゲーム企業の栄枯盛衰の移り変わりは早く、結果的に労働マーケットの流動性が高い印象です。開発に1-2年掛かるプロジェクトだとすると初期構想考えていたメンバーと2年後ローンチさせたメンバーが全く異なるメンツだった。なーんて話し多分にありますよね。

かくいう私もPJTの初期からjoinしてリリース→運営と長期的に見守ったタイトルはほとんど無いのが事実です。ということは、マーケターのほとんどの方が後者の方が多いのではないでしょうか?このような、事業計画を達成することが求められるマーケターからすると「こんな予算じゃやりようがない」「こんなプロダクトなんて売れるわけがない」「最初から私が入っていれば、こんな設計にはしなかった」などなど、色々文句が出てくると思います。

もし、そのような人材の流動性が激しく、業務の属人化が成果に著しく影響する環境であったとしても、ソーシャルゲームで再現性を持って成果を出す方法があれば安心ですよね。立ち返る原理原則があると人は安心します。

例えば、古典物理学の定義といえば、運動方程式のm*xの二階微分=Fがあります。これは古典物理の適応範囲の中で揺るがないです。つまり、世の中はm*xの二階微分=Fの制約を受けて運動をするということです。だから、我々は安心して古典物理学の適応範囲の中で物理現象を予言することができます。

そのようなソーシャルゲームマーケティングの原理原則を今回お話できればと思います。

・本記事執筆の経緯

ソーシャルゲームマーケティングで再現性を持って成果を出す方法をまとめようと思った経緯は、2つありまして


①プロデューサー業務、プロモーション含むマーケティング戦略立案等、マーケターとしての実務を積む中で再現性のある仕事の進め方が見えてきたため、まとめようと思いました。


②セミナー、パネルディスカッション、インタビュー記事等色々取り上げてもらう中で、とあるインタビューで「私がモバイルマーケティングってこうあるべきだと思うんです。」としゃべった時にインタビュアーの方が「森下さんと言っていることがほぼ一緒な方がいますので、その方の本を是非読んでみてください」と言われました。その方が西口一希氏でして以下の書籍を書いている方です。

読んでみると、あらまあ不思議w。言葉の使い方違えどやってることがほぼ一緒でした(笑)ただ、西口氏が取り扱ったスマートニュースというアプリはゲームの課金マネタイズと異なり広告収益でのマネタイズなので、トラッキングするKPIが少々異なります。また、モバイルゲームのようにインストール後から課金に至るすべての行動データを保有しているため、行動データの取得幅と言いますか深度が格段に非ゲームアプリと異なります。そのあたりの実務で効用を感じた部分をアップデートすることで、より再現性のあるフレームワークが作れるのではと感じました。


これから実践するマーケティングフレームワークは俗に言う、3Cや4Pをソーシャルゲーム用に拡張したものに過ぎません。また、2回に分けて記事化したマーケターに必要な分析思考の前編後編を応用しただけですので、非常にとっつきやすくまとまっているかと思います。結局、商材が何であれ基本的な分析の態度は変わらない、ちょっとしたコツがあるだけということです。それでは、ソーシャルゲームマーケティングで再現性を持って成果を出す方法について、まとめていきます。

・概要

まず結論から申し上げますと、大きくは以下のフェーズで何をやるかを記載しておきます。

①現状分析(前編)
②問題点の抽出と課題の設定(後編)
③マーケティング施策への落とし込み(後編)

対象がモバイルゲームであろうとなんであろうとマーケティングの原理原則はまず、現状を分析して、問題点を抽出します。その問題点から見える課題を設定し、その課題に対する有効なマーケティング施策(インゲームとアウトゲーム)に落とし込み実行して、効果検証を行うというものです。では、次に個別のフェーズで何をする必要があるかを記載していきます。

・現状分析

前回のマーケターに必要な分析思考の前編と後編で記載した分析思考と3C分析をソーシャルゲームに応用します。3C分析とは、外部環境の市場と競合の分析からKFS(Key Factors for Success )を見つけ出し、自社の戦略に活かす分析をするフレームワーク。3Cとは、「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字です。その各々についてまず、現状どうなっているのかを把握します。そのためのツールを紹介していきます。

-「自社(company)」

まず、自分が担当するソーシャルゲームの現状を理解します。そのために用いるフレームワークとしてクラスター分析があります。できれば、時系列でトラッキングできることをおすすめします。クラスター分析とはユーザーをクラスターに分けて、各クラスターにPU(ペイユーザー=課金者)が何人いて、そのクラスターの平均MARPPU(マンスリーアベレージレベニューパーペイユーザー=当月に課金したユーザー一人あたりの平均化金額)は何円で、合算すると、どのクラスターが売上の何%に貢献しているかを示すものです。

こんな話をすると「何故、クラスターに分けるの?」と疑問を持たれる方もいると思いますが、表面的なDAU、MAU、MARPPU、売上の情報ほどいらない情報は無いです。何故かというと、それはどんな商材であっても売上や利益の約80%を上位のロイヤルユーザー20%で構成するからです。この規則性はパレートの法則と呼ばれており、大体どのゲームでも程度の差はあれど、そうなっています。ですので、表面的なDAU、MAU、MARPPUで議論し始めると「そのインゲーム、アウトゲームの施策は誰のための施策なの?」となり、ターゲットがぼやけます。そもそも表面的なDAU、MAU、MARPPUで議論している時点で「誰のために」という概念が無いので、既に施策はぼやけていて一般論的・抽象的な当たり障りの無い訴求になります。結果、あらゆる施策がコケます。中には、当たる施策もあると思いますが意図していない出来事=再現性が無い=マーケティングではないです。

つまり、クラスター分析で分解することで、誰が本事業の売上に貢献しているか、誰が未来この事業に貢献しうるかを可視化することが出来ます。長期運営アプリで新規の入る見込みの無いアプリは、このクラスター分析のみで充分。ここにRFM分析を持ち込み現状離反しそうなユーザーを確認することも可能です。

アウトプットイメージとしては以下のようなものです。(数字は当て字です)

画像1


そして、もう一つ必要なものが、そのアプリのUIUXフローです。これはユーザーがインストールしてからチュートリアルを突破して、ゲーム初心者としてデビューして、アプリ内のユーザー体験を通じて初課金して、課金してからPvPやGvGなどのエンドコンテンツを回遊するようになってロイヤルユーザー化するまでの平均的な必要時間を網羅したフロー図です。これとクラスター分析を組み合わせることで、各クラスターがUIUXフローのどこで滞留しているのか?ボトルネックがわかります。サンプルは以下です。

画像2

この時系列を加味したUIUXフローとクラスター分析で各クラスターのユーザーがどのフローでスタックしているかを可視化します。以下のようなイメージです。

画像4

ネットで見る以下のようなものや個別機能の仕様書でいいやん。と思うかも知れませんが、それだと何の意味もありません。

画像3

参照 https://www.otwo.jp/blog/specification_writing/

何度も申し上げたとおり、マーケティングとは顧客にとって魅力的な商品やサービスを開発し、顧客に継続的に購買・使用してもらう活動の総称です。これを再現性を持って行う活動がマーケティングです。ですので、ユーザーが時系列でどんな体験をして、エンドコンテンツに到達するかを顧客の立場に立って考えないといけません。ですので、今回の場合、一人のユーザーとして、チュートリアル突破に大体何分掛かって、ランク◯◯に何分で到達して、PvPコンテンツの最高ランクをクリアするのに◯◯分かかったというストーリーをもとに時間軸が付いたUIUXフローを作らないといけません。時間軸が入っていないことで、気づけ無いことを見落とします。例えば、とあるイベントを突破するのに途方も無い壁が存在して、その存在がAとSSS-Sの壁になっている。とか。それがわかれば時短のための課金アイテムを導入することができません。

-「市場(customer)」

ターゲット市場の市場規模を加味した、顧客カバレッジを各クラスターおよび離脱・未インストール層まで算出することで、現在取りこぼしている顧客をクラスターごとに推計し、現時点における事業成長性を可視化します。言っていること難しいのでつまりは以下の図を作るということです!

画像5

SSS-Aのロイヤルユーザー(パレートの法則で言うところの80%の利益を生み出す上位20%)クラスター、B-Dの一般顧客、無課金の一般顧客予備軍、離反顧客、認知未インストール、未認知顧客に分解することで、ターゲット市場のユーザーを抜けもれなくクラスターに分類出来ます。

この作り方としては、基本的にはマクロミルのようなリサーチ会社を活用したネットモニターに対するインターネット調査(定量調査)と上述の自社プロダクトのクラスター分析を用いてターゲット市場を最大パイとした推計で算出します。

方法としては以下の7つの質問をターゲット市場の調査対象者に行います。なお、調査対象者を抽出する際にあまりにも対象者条件を厳しくするとネット調査できる母数が集まらない可能性があることに注意してください。

①対象アプリを知っているかどうか
②対象アプリをインストールしたことがあるか
③対象アプリを課金したことがあるか、ある場合はどの程度の頻度・金額を課金しているか。
④今後もこのアプリをプレイしたいと思うか(複数回答、単一回答)
⑤日頃のメディア接触と接触時間
⑥広告の認知経路
⑦デモグラフィックデータ(性別、年齢、居住地、個人年収、世帯年収 等)

そうすることで、SSS-Aのロイヤルユーザー(パレートの法則で言うところの80%の利益を生み出す上位20%)クラスター、B-Dの一般顧客、無課金の一般顧客予備軍、離反顧客、認知未インストール、未認知顧客に分解でき、さらに④で今後の利用意向も確認しているため、各クラスターでブランドが大好きで今後もやめない層と離脱可能性のある層も把握することができます。

また、⑤の接触媒体と接触時間をヒアリングすることで、ゲームの可処分時間ひいては課金へのモチベーションを脅かすエンタメが何なのかを確認可能です。これを時系列で定点調査をすることで、ゲームの可処分時間、可処分所得をどこに奪われるかを確認できます。


-「競合(competitor)」

上記の自社と市場で紹介しました、マーケット全体をカバーしたクラスター分析、UIUXフローを競合タイトル分も作ります。その上で、自社タイトルの各クラスターのユーザーが競合アプリのどのクラスターに属しているかの重複分析を行います。この3つが競合分析です。なお、重複分析とは以下のようなイメージです。

画像6

ユーザーAは自社アプリと競合アプリAを併用していて、自社アプリのSSS層ユーザーで競合アプリの無課金層の場合です。この場合、何故自社のアプリをそこまで遊んでくれるのか?その背景をインタビューすることで示唆を得られる可能性があります。

画像7

一方、ユーザーBは自社アプリと競合アプリAを併用していて、自社アプリの離脱ユーザーで競合アプリAのSSユーザーだった場合です。この場合、何故自社のアプリを離脱して競合アプリAをそこまで遊んでくれるのか?その背景をインタビューすることで自社アプリで離脱した理由がどこにあったのか確認できる可能性があります。

競合タイトルの抽出は上記の定量調査の中で併用アプリとして割合の高かった、同ジャンルアプリを抽出します。同ジャンル(=ターゲット市場)と記載したのは、同ジャンルに限らず、ソシャゲ全体で併用分析を行うとインストール数の多いモンスト、パズドラ、ツムツム等が上がってくるためです。

それらを競合と捉えた場合とそうでない場合で打ち手が大きく異なりますので注意が必要です。上述した定量調査の質問項目はもちろん、競合ゲームのゲーム名も入れて回答させる必要があります。例えば、とあるユーザーは競合ゲームAをやっていてSSクラスターで月間◯円使っているのに対して、当社ゲームではAクラスターで△円使っている。という事実を確認することが出来ます。そうすると、その差分は何かのか?を他の聴取した質問や行動データから仮説をたてることが出来ます。

・まとめ

ソーシャルゲームマーケティングにおいて再現性を持って成果が出せるという立場を筆者は実務経験からとっております。そのためのフレームワークの導入部分をお話しました。基本的な流れは、

①現状分析
②問題点の抽出と課題の設定
③マーケティング施策への落とし込み

であり、今回の前編では①現状分析の話をしました。後編では、②問題点の抽出と課題の設定 と ③マーケティング施策への落とし込み について話します。③マーケティング施策への落とし込み について話します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?