見出し画像

企業変革のためのブランドマネジメント

前回では、「知的資産経営としてのブランドマネジメント」の捉え方について書かせていただきました。今回は、私なりの「ブランドマネジメントの新解釈」について考察してみます。この記事から読まれた方は、前回記事「知的資産経営としてのブランドマネジメント」も読んでいただけると嬉しいです。



ブランドマネジメントの新解釈

私なりのブランドマネジメントの定義

私のブランドマネジメントの定義を書くのは、とても恐縮するところですが、以下に書き出してみました。

ブランドマネジメントとは、強固な収益力を維持するための経営戦略として、組織全体でブランド資産を最大限に活かせる環境を整備し、社会変化を踏まえながらブランドに資する活動や要素を進化させながら、長期的なブランド価値の向上を管理すること。

一つひとつ、私なりのこだわりを解説します。まずは、ブランドマネジメントはマーケティング戦略の傘下にあるものではなく、あくまでも経営戦略レベルの取り組みであると考えています。この考えは、以前の記事で「マーケティングとブランディンの本質的な違い」について語らせていただきましたので、そちらをよければご参照ください。

二つ目として、今の時代においてブランドは守るだけでなく、攻めることも重要であること。これまでのブランドマネジメントの考え方では、ブランドの資産価値を評価し、多種多様なブランドに資する活動をアライメントできるようにコントロールするという意味合いで捉えられていることが多いと思います。しかし、現代のように先行き不透明で変化が激しい時代において、「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」という視点がとても重要であると考えています。

三つ目として、ブランドマネジメントは、一部の部署だけが携わるものではなく、組織全体で取り組む必要があると考えています。マーケティング、人事、経営企画など、各部署の役割の中で、ブランディングを実践していくためには、ブランド資産を最大限に行かせる環境や仕組みを整え、組織全体でブランドを深化させ、同時に進化させ続けられるような組織文化が重要だと思っています。ここにブランドマネジメントの本質があると私は考えていますので、詳しくは、次回の記事で説明いたします。


ブランディングとイノベーションの関係性

ここでは、上記でお話ししました二つ目の「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」という考えについて、もう少し詳しく説明していきたいと思います。

マーケティングとブランディンの本質的な違い」の中でご紹介した、時間軸の中で「プロモーション」、「マーケティング」、「ブランディング」、「イノベーション」を並べた図を振り返ってみたいと思います。

図:時間軸で見るマーケティングとブランディングの違い

この図の中で、ブランディングとイノベーションを隣り合わせにしています。この関係性から「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」ということを紐解いていきたいと思います。


デザイン経営からの紐解き

そこで、参考となるのが経産省が掲げているデザイン経営の定義です。「デザイン経営は、ブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争力の向上に寄与する」とされています。そして、デザイン経営には「ブランド構築に資するデザイン(Design for Branding)」と「イノベーションに資するデザイン(Design for Innovation)」の2つの側面が必要であると説明されています。デザイン経営とい視点から、ブランディングとイノベーションは相互関係にあることが読み取れます。

参照:「デザイン経営」宣言 / 経済産業省・特許庁 / 産業構想力とデザインを考える研究会


両利きの経営からの紐解き

次にチャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマンの書籍「両利きの経営」も参照してみたいと思います。本の中では、変化が激しい時代において、「知の深化」と「知の探索」が高いレベルでバランスよくできる「両利きの経営」が重要であることを説いています。「知の深化」とは、既存の知識を実際に用いながら、事業や組織の制度をさらに高めていく深化を意味すること。「知の探索」とは、未知の領域で試行錯誤し、自分の知識範囲を広げる探索を意味すること。私なりに言い換えると、事業や組織における「守り」と「攻め」の両面をどうバランスよく経営するかということでしょうか。

参照:「両利きの経営」 著:チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン

この考え方を、多少強引ですが、先ほどのデザイン経営の考え方と組み合わせると、「知の深化」に貢献できるのは、ブランド構築に資するデザインと読み取れ、「知の探索」に貢献できるのは、イノベーションに資するデザインと読み取れるかもしれません。デザイン経営も両利きの経営も先行き不透明で変化が激しい時代に求められる経営アプローチとされていますので、自ずとその考え方は類似すると考えても良いかと思います。

デザイン経営と両利きの経営とのつながり

また、「両利きの経営」を実現するために三つの組織能力が求められるようです。「知の深化」のための既存事業を深堀する能力。「知の探索」のための事業機会を探索する能力。そして、これらの異なる能力を併存させる組織能力が必要と言われています。

繰り返し、デザイン経営とのつながりを考察すると、一つ目の既存事業を深堀する能力にはブランディングと、事業機会を探索する能力にはイノベーションと紐づけてみることができるかもしれません。最後に残った、異なる能力を併存させる組織能力には、「組織文化に資するデザイン(Design for Culture)」というデザイン経営における3つ目の軸が必要ではないかと私は考えています。

株式会社AKIND 岩野による仮説

私は、この3つの組織能力と3つのデザイン経営のアプローチを統合させることで、どのように「ブランドの何を継承し、何を進化させていくか」という問いに対して、実務レベルで答えられるブランドマネジメントの手法を日々模索しています。


おわりに

次回の記事では、組織全体でブランドを深化させ、同時に進化させ続けられるような組織文化の醸成をベースとした私なりのブランドマネジメントの考え方を紹介したいと思います。


株式会社AKIND 代表取締役 CEO | 岩野 翼

<この記事を書いた人>
岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO / 神戸在住 / 二児の父
英国のBrunel University ブランディング&デザイン戦略修士課程終了。2014年に神戸にて株式会社AKINDを創業。ブランディングという手法は、より良い社会を創り出すために貢献できるのではないかと信じて、神戸から新しい試みに挑戦しています。