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知的資産経営としてのブランドマネジメント

これまでは、私なりの「ブランディングの新解釈」をつらつらと書かせていただきました。今回からは、AKINDがこだわっている「ブランドマネジメントの新解釈」について、書いてみたいと思いますので、お付き合いいただければうれしいです。


「知的資産経営」としてのブランドマネジメント

私なりのブランドの定義

前回もご紹介をしましたが、AKINDは、一般的にイメージされるロゴやコミュニケーションなどのデザインを通じたブランディングだけでなく、「クライアント自身が自分たちの手で、ブランドをマネジメントする」ことにこだわっています。そして、ブランドマネジメントこそが、AKINDがパーパスに掲げている「百年続く、三方よしの商いを共につくる」ことを実現できるアプローチだと信じています。

前回の記事にて、私なりのブランドの定義をお伝えしました。

ブランドとは、顧客や従業員にとって、商品・サービス・企業との「唯一無二の関係」である。

ブランディングとは、顧客と従業員が期待する価値を届けることで、「唯一無二の関係」を築いていく継続的な活動である。

ブランディングを通じて、企業・商品・サービスが、顧客や従業員にとって他では換えが効かない唯一無二の存在となることを目指します。そして、ブランドを活用することで、プロモーションやマーケティングのコストが抑えることができ、その資金を新たな価値創出につながる取り組みへと投資していく。その結果、企業の競争力を持続的に高めることにつながると考えています。そのため、企業経営において、ブランドという「知的資産」の価値を高めていくことが重要だと言われているのです。


ブランドは「知的資産」

ここで、ブランドマネジメントの考え方にも関係しますので、「知的資産」について、少し触れておきたいと思います。経済産業省のWebサイトから「知的資産」に関する説明を以下に抜粋しました。

「知的資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。これは、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方であることに注意が必要です。さらに、このような企業に固有の知的資産を認識し、有効に組み合わせて活用していくことを通じて収益につなげる経営を「知的資産経営」と呼びます。

 参照:https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/teigi.html

ブランドという単体の要素で捉えるのではなく、経営理念や組織力、顧客との関係性なども含めた複合的な企業の強みを組み合わせて活用していく「知的資産経営」の実践こそが、ブランドマネジメントの本質にあると考えています。


ブランドが持つ資産価値 「ブランド・エクイティ」

ここで、ブランドマネジメントの定義について振り返ってみたいと思います。まずは、私がイギリスで修士論文を書いていた時に読んでいた昔の本を紐解いてみました。ブランドマネジメントの権威であるKevin Lane Keller(ダートマス大学のタック経営大学院E.B.オズボーン・マーケティング教授)の書籍「戦略的ブランド・マネジメント」の中では、以下のように説明されています。

戦略的ブランドマネジメントとは、ブランド・エクイティの構築、測定、管理を行うためのマーケティング・プログラムおよび活動を、設計し、実行することである。

Kevin Lane Keller

文中にあるブランド・エクイティは「ブランドが持つ資産価値」と言われています。ブランドという形がないものを資産として評価し、その価値を高めるために育成や投資をしていこうという考え方を示したものです。Kellerが考えるブランド・エクイティは、「レベル1:ブランドの認知(Brand Identity)」「レベル2:ブランドの意味づけ(Brand Meaning)」「レベル3:ブランドに対する反応(Brand Response)」「レベル4:共感や同調(Resonance)」の4つの段階まで達成できると価値が高いブランドになるという理論を構築しています。Kellerはマーケティングの専門家であり、ブランドを顧客ベースで考えています。そのため、ブランドマネジメントもマーケティング・プログラムの範疇に留まっていて、先ほどの「知的資産経営」という視点からは、個人的には少し物足りない気がします。


知的経営視点でのブランド・エクイティ

それでは、ブランド論の第一人者であるDavid A. Aakerによるブランド・エクイティの定義も見てみたいと思います。

ブランドの名前やシンボルと結びついたブランドの資産(または負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増大させるもの。

David A. Aaker

Aakerは、ブランド・エクイティが「ブランド認知(Brand Visibility)」「知覚品質(Trust & Perceived Quality)」「ブランドロイヤルティ(Brand Loyality)」「ブランド連想(Brand Associations)」「その他のブランド資産(特許、商標、取引先との強固な関係性など)」の5つの構成要素で成り立つと解説しています。マーケティング戦略だけではなく、経営戦略レベルでの視点も加えられる余地が見え、「知的資産経営」に近づいてきました。

次に、国内のブランドコンサルの老舗であるグラムコのWebサイトから、ブランドマネジメントの定義を抜粋してみました。

Brand Management(英)。企業活動の中でブランドを戦略的に活用するため、ブランドを企画、開発、運用するための一連の業務を指す。狭義ではブランド推進室や広報・宣伝などの専任部門の業務だが、活動を具現化するためには経営企画、人事、開発・生産、販売・営業、顧客サポートなど社内外のステークホルダーとの接点に関わる全ての部門が関係する。

参照:https://www.gramco.co.jp/question/547.html

実際にブランディングを現場で実践してきた経験から、私にはとてもしっくりとくる定義です。「知的資産経営」としてのブランドマネジメントを捉えることができる気がしてきました。


おわりに

次回は、私なりの「ブランドマネジメントの新解釈」に対する考えを、書いていきたいと思いますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

株式会社AKIND 代表取締役 岩野 翼

<この記事を書いた人>
岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO / 神戸在住 / 二児の父
英国のBrunel University ブランディング&デザイン戦略修士課程終了。2014年に神戸にて株式会社AKINDを創業。ブランディングという手法は、より良い社会を創り出すために貢献できるのではないかと信じて、神戸から新しい試みに挑戦しています。